奉献之文

□拈華の指
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黄昏時−

溜め息をつく男が一人−





「俺…何かしちまったかな…」


日中の主の怒りようは尋常では無かった−


最近、あまり口を聞いてくれなかった。この出来事で後何日まともに話しが出来なくなるかと考えると無性に悲しくなった




自室の部屋の障子を開けるとそこには−







雀茶の髪が黄昏の光りで赤みを増している。


俯いて表情は分からないが間違いなく、これは愛しい我が主だ。



「殿…」


障子を後ろ手で閉めると少し離れて座る。





「殿あの…!?」





いつもは宥めすかし、あやすようにしないと抱けない体が、自分から己の懐に飛び込んで来た−



「殿…」


肩を掴むと震えている、顔を見れば真っ赤で目はうるうると栗色の目が潤んでいた。


「左近…」


彼の者の頬の傷に触れる。触れた指は普段からは想像がつかない程熱くて、少し汗ばんでいた−


「…左近」


指から手へ、傷から頬へ、触れる範囲が広がる。



左近の腿の間で膝立ちになると目線が同じになる。


「左近…?」


自意識過剰だ−


「殿…」


「何だ?左近」


−貴方が名を呼ぶ度−

「まだ…黄昏時…人目があります。」





−抱いてくれ−そうせがんでいるようだ





「…左近なら言い訳の三つや四つ思いつくだろう…?」
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