奉献之文

□拈華の指
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「それとも何か?左近に用ですか?」







「いや…お前は今忙しそうだ…」


「?そう見えます?まっ、例え本当に忙しくても殿を優先しますよ」



にこりと笑う、何故かホッとして、チラリとあの侍女を伺う−


−先の俺の顔ではないか−



切なくて悲しくて、気持ちを知っていたら同情しても良いはずなのに−



この優越感は何だ?



「殿も来ませんか?市井の話しが聞けますよ?」


城から滅多に出ない主には、きっと珍しい話しばかりだろうと、よかれと思って左近は言ったが、三成には激しい怒りが込み上げる


−お前が−





−お前が言ったのではないか−



「いや…邪魔はすまいよ。」


「?邪魔?殿が邪魔と?」


「そうだろう、お前の楽しみの邪魔に俺はなる」


「意味が分かりかねますが?」





「お前は追うのが趣味なのだろう?女の尻を追うのが−」


−酷い事−


酷い事とは分かっている、分かっているのに悪辣な言葉が止まらない。涙を流す代わりに言葉を吐き出す。



「!…殿」


悪い癖、こういう時、いつも相手の顔を、目を見られない。


「市井が恋しいなら、花街にでも何でも行ったら良い」


殿、と呼ばれ手が差し出される。






「…触るな。俺は遊女でも、遊女の代わりになる気も無い」


言うと、逃げるように走り出す。もう、左近が何を言ったか解らなかった。





−酷い事を−
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