駄文

□竹葉に酔ふ
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「歩けるのか?」

「嫌だなぁ。大丈夫、歩けまぁす」


小姓時代からの長い経験上、酔っ払いの”大丈夫“は大丈夫で無い事を知っている。
一度めよりやや長めに溜息を吐くと、組んでいた腕を解き左近の腕を取り己の肩に回すとぐぅっと、中国大返しで見せた文史には分不相応とも思える怪力を発揮した。


「…くっ!」


ずしりとのしかかる左近の重さに思わず呻きが喉から漏れた。
平素二人でいれば寄り掛かる側の己には初めての感覚だ。


「っ…お前達は閨を用意してこい」

手伝ったら良いものか手を差し出しかねている−従者が手伝おうとしたが、獣が前肢を振るうが如くきつく払われたのを見たのが原因らしい−家の者にそう命じる。


「布団は二組だぞぉ」


「左近…俺に無礼講は効かぬぞ」


けらけら笑う左近にそう睨めつけると歩き出す。来る時はあんなに短く感じた屋敷までの道則が今は遥か天竺に向かうように遠く感じた。






ずるずると濡れた着物を幾重にも纏っているようだ。

だが不思議と、疲れはするがこの大きな体目一杯使って己を押し寄せる敵勢から死守してくれていると思うと、肩を貸す事を不快だとは思わなかった。


左近の部屋に着く頃には夜着がややしめる程度に汗をかいてしまっていた。
羽織っていた上掛けも何処かに落として来たらしい、先まで身震いしていた夜風が心地良い。


「閨、整いましてございます」


「うむ、後は下がっていろ」


忠義に篤い家臣共だが、己がくるまでにややあったのだろう、左近が下がれと低く言い放つとあっさりと引き下がった。

部屋が僅かに暖かい。

酔い覚めで体が冷えるだろうと気を使ったのか、火鉢が焚かれている。
明日あの者を大いに労わねばと、不器用と身内では名が知れている三成だが−少々行儀が悪いが−器用に足を使い襖を閉めた。


「殿ぉ、行儀が悪いです」

こういう時の目敏さは酔っても健在なのか、指摘されると三成は鼻を鳴らした。


「お前は酔うと始末が悪いな」


さぁ、後少しだと己を叱咤すると四つ角を合わせたようにぴしりと敷かれた布団へと歩を進めた。





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