駄文

□秋霖
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同じ男の手に収まる己の細い頼りない手をしかめっ面で睨んでる。
その所為で立て膝をついた左近が、その手を愛しげに眺めていたのには気が付かなかった。


摩るかの如くやわやわと、決して痛くないように配慮しながら冷えた手に熱を戻してゆく。

太く、固い節のいかにも男らしい手はその姿に似合わず優しい、繊細な動きをする。
慈しむよう、愛でるよう。決して傷付ける事など無いように。


ゆるりゆるりと慰撫される手には仄かに人らしい熱が帰ってくる。
心地良さに目を細め、小さく息をつくと視線は手にあれど、左近が問い掛けてきた。


「どうです?温かくなってきましたか?」


こくりと頷くと畳に髪がすれてさらりと音が鳴る。
視線はやはり手なのだがそうですか、と優しい錆声が響いた。


手はもう充分過ぎる程に温まっている。だが左近は、手を摩るのをやめようとはしないし三成もそれを止めようとはしなかった。


怠惰な緩い空気が流れる。
うとうとと、眠気が襲って来て欠伸を噛み殺していた三成に左近は笑って、眠れば良いと言った。


「いや…いい」


何時も以上に抑揚が感じられない声に左近はあやすような声音をかけた。


「別に良いじゃ無いですか。どうせまた直ぐ冷えてしまいますからね」


「…だからい「左近が側におりますよ」


「!?」


顔に一瞬にして朱がのぼる。体がかっかっと暑くなった。
図星当てられたのだ。

「寝ても大丈夫ですよ」


「なっ!?そういう意味で眠らぬと言ったわけでは…!」


「はいはい」


知られ過ぎるのも困りもの。
左近の手が赤茶の髪を撫でると直ぐに強烈な睡魔が三成の瞼を重くした。


「…さっきの、違う、から、な」


覚束ない口調に困り顔で笑みながら分かりましたよ、と声がした所まで三成は覚えている。






秋の長雨は嫌いだ。


寒くて寒くて、手がかじかむ。

だが、

もっと寒くなれば良いと思うのは可笑しな事か。




そうすれば、

体が冷えると言い訳を立てて、



お前の懐に潜り込めるではないか。


俺らしくもないか?左近。




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