駄文
□徒花
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「…これは『徒花』だろう…?痛々しくて見ていられない」
「は…?」
『奇品』とは主が言う通り『徒花』とも呼ばれる。
同じ花でも色が変わっていたり咲き様が違うその珍奇な美しさに人々は魅了される。
代わりに徒花は種を残せない、一代だけの美しさなのだ。
「徒花…しかも牽午花の徒花など直ぐに萎れてしまうのだ…あまりに虚しい」
成る程。
先の眼差しは嫌悪ではなく憐憫の情の眼差しか。
「最初からそう言って下されば薬種屋もああ怯えなくて済んだものを…」
「勝手に怯えたのはあの者だろう」
ふい、と顔を背ける。その様に愛しさが募り笑みが零れた。
徒花も彼の方も好きで珍しい程に美しくうまれ、人に嫉まれる為に生きているわけでは無い。
唯一人、
唯一人己を汚らしい感情無しに「美しい」と言ってくれる者の為に美しくあるのだと左近は思った。
徒花の牽午花にとっては自分を育てた薬種屋が、
この方にとっては−…
「殿…」
「要らぬ」と言ったのに看取るように何時までも牽午花を見詰める。花の高雅な紫に妙美な横顔が良く映える。
「どうした?」
「……」
「左近?」
左近は困ったような恋人を惚気るような笑顔をして見せた。
「…自惚れても良いですかね」
「……何をだ?」
左近の突拍子も無い言葉に三成は小首を傾げる。さらさらと髪が肩から落ちた。
−貴方が想う唯一人はこの左近だと
「自惚れさせて下さい…」
「理由が分からない事に俺は返答せん」
左近はからからと大笑いをし、左近の様子に三成は気を悪くしたのか眉間に皺を寄せる。
「すみません。気を悪くさせました」
頭を撫でようとしたがぱっと払われ、三成は左近に背を向けた。
こんな所も愛しいと、すす、と擦り寄り肩に顎を置いてみた。
「殿、すみません」
「…知らん」
「機嫌直して下さいよ」
「欝陶しい…」
「お詫びに永久に枯れぬ花を差し上げますから…ね?」
「本当にあるのか?」
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