駄文

□徒花
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「左近にくれてやる」

薬種屋の顔がみるみる青くなってゆく。
全身が小刻みに震えている。一人だけ真冬の吹雪に晒されているようだった。


献上した物を直ぐさま下賜するなど。『気に入らん』と言っているようなものだ。即刻首を撥ねられても仕方が無い。


左近は取り敢えず、今にも泣き出しそうな薬種屋に多めの金子を与え、事後は任せよと声を掛け、帰してやった。





「殿…何故あのような物言いを」


「…俺はいらんから左近にやると言ったまでだ」


何が悪いと、踏ん反り返らんばかりに胸を反らし左近を睨めつける。左近は眉を寄せ、しかめっつらをつくった。


彼の人は子供だ。
世辞が言えぬ、作り笑いも出来ぬ、冗談を真に受ける。
擦れっ枯らした自分にしてみれば、まばゆいばかりの長所なのだが他人には『横柄』、『高慢』と取られるらしい。
だが、他人を傷付ける事は良い事では無い。ここはきちんと説いてやるのも自分の仕事だ。



「殿…薬種屋は良かれと思ってこれを持ってきたのですよ」


「貰った俺からすれば『大きなお世話』だ」


「相手は只の民なのですよ。つれなくしてはあまりに可哀相だ」


「だからどうした?俺はいらんと言ったらいらんのだ。」


朝の三成は機嫌悪い、何時にも増して折れ難く、左近も心中で僅かに呆れてしまった。


「では…いらない理由位お聞かせ願いましょうか。」


問うと三成は檜扇で口元を隠し、視線を泳がせ始めた。
左近は知っている。この仕草は嘘を付こうとする時の前兆という事を。


「花が嫌いだ…」


「……共に桜を見に行ったりしたのに?」


「……」


「左近には嘘を付かないで下さい」


「…やだ」


ぼそぼそと檜扇の裏で呟く言葉を左近は聞き逃さなかった。


「何ですか?」







「理由を聞けば…笑うから……嫌だ」


むっと口を尖らせ、上目使いで己の顔を伺う姿があどけなくて可愛い。


「笑うわけ…無いですよ。教えて下さい。」

三成の不安を一笑して真実を促す。三成は部屋の隅に置かれた奇品の牽午花に視線をやった。








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