駄文
□禍福は糾える縄の如し
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「…薩…摩?」
三成は何が可笑しいと言わんばかりの顔をする。
「…義弘の所に行っていた」
更に左近の目が丸くなる。
三成が一人でそんなに遠くへ行くなんて。
呆けていると二人の下男がやって来て馬を引いていく。
三成は馬から降りると固まったままの左近を訝しい気に見詰める。
「左近?どうした?」
「いや…よく一人で義弘爺さんの所まで行けたなぁ、と」
「俺は子供ではない」
眼光を鋭くし、明らかに怒っているのがわかる。本音を出してしまったのは自分でもまずいと思った。
「心配したんですよ?」
「要らぬ事…そう書いただろう」
「でも心配しました」
しばし見詰め合い、負けてしまったのは三成の方だった。
「すまなかった…」
謝罪の言葉にさっきまでの渋い顔をゆるりと緩め、困った風に笑い、うなだれた可愛い主の頭を二、三撫でようと手を翳した、その時−
「痛っ−…」
ばち、いう音と痺れるような痛みに手を引く。うなだれていた三成も驚いて顔をあげた。
「左近?どうしたー」
引っ込めた手に三成の手が触れた。すると先程とは競べものになら無い位の痛みと音が左近を襲った。
「〜っ!!…」
今度は三成が手を引く。どういう事だと己の両手を凝視する。
別段変わった所はないように見えるが、左近の痛みに耐える顔に何かがあると分かった。
「…左近…俺は」
「稲妻…とまではいきませんが、体を雷電の力が走ったようで…」
今だ痺れる腕を押さえながら三成に寄る。
よく感じれば三成の周りにはぴりぴりと毛が逆立つような空気が流れている。
「一体…どうした事でしょうね」
「……ギン千代?」
義弘の所へ行った時、ギン千代も居た。六日間三人で薩摩を視察したり、造船所に立ち寄ったり、左近には内緒だが観光をしたりした。
「あぁ…ギン千代ね。確かにあの娘さん、雷神、道雪の娘だが……」
「義弘は何とも無いようだったぞ?」
義弘を訪ねた時、ギン千代と共にいたが義弘からは何も感じなかった。僅かにギン千代からぴりとした空気が発せられてるだけであった。