駄文
□刀痕。独占欲の幽囚
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「−−…殿」
影がびくりと動いた。紛れも無い。
愛しくて会いたかった。唯一人の御方
出来るだけ普段のような声を出す。
「……殿、お入り下さい。まだ夜は寒い」
返事は無い。影は再び動かなくなった。
会いたくて会いたくて堪らなかった。早く早くー…
「殿、左近は殿のお顔が見たい……」
左近には長い沈黙に感じた。
躊躇いがちに障子戸が開く。
枕元に折目正しく正座をする。白雪の手は太腿の上で着物を握り、固く拳をつくっている。
会いたくて、触れたくて、
傷の所為で熱が冷めないでいる手で顔の輪郭をなぞる。何時からあそこに座っていたのか。ひやりとする肌が気持ち良い。
「殿」
「そんな顔、しないで下さい」
怜悧な瞳からはぼろぼろと大粒の涙が落ち、着物に、握りしめた拳に雫が落ちる。
眉根を寄せて唇を噛む姿は痛々しくて、出来るのなら抱きしめたい。役立たずの体めと自分を罵りながら手に全ての神経を集中させる
「左、近」
どうしてこんな事になったのか。
三成はこの場から消えたいと願った。
あんな事を思ったから−…
三成は左近が寝付いてからずっと左近の部屋通っていた。
どうしても恐くて部屋の中に入る事が出来ずに部屋の前で、ある時は立ち尽くし、ある時は膝を抱えて小さくなって、傷の痛みに呻く左近に心中で謝りながら夜を明かしていた。
「左近、すまない…!すまない……」
「謝らないで下さい…殿の所為ではありません」
かたかたと振るえる肩は寒さか鳴咽でか。
全てを吐こう。嫌われても良い。出奔されても良い。
「俺はお前が傷付けば良い……そう思った」
「……」
「お前の体の傷は俺の為のモノではないと思ったら……最低だ。俺は」
頬を撫でていた熱っぽい手が引いてゆく。残っていた僅かな体温が全て左近の手と共に去ってゆくー…
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