駄文

□刀痕。独占欲の幽囚
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ぼぅと陽炎の如く揺らぐ視界で天井を眺めるのは


熱に浮され心地良くない覚醒を迎えたのは何度目か。






左近は先の戦で怪我を負った。





敵方決死の奇襲を本陣に受けた。




馬を飛ばす。本陣まで保てば良い。乗り潰してでも辿りつかねばならない。


大事な人がそこに居るから。



辿り着いた時には本陣は砂塵と兵士の悲鳴で主の姿は確認出来ず、左近はただ獅子が吠えるように愛しい者の名を呼ぶしかなかった。


砂塵の隙間に明るい色が見えた。
左近にはそれで充分だった。見間違える筈が無い。



−殿!!!−



乗り潰した馬を捨て、明るい色の方向へ駆ける。


砂塵を切り裂き主の元に参じた。
三成は多少埃と反り血で汚れていただけであった。


「左近!!」



危険なのは主の方、しかし声音は自分の身を案じていたと言うようで、戦場で、危機の中で不謹慎にも愛しいと思ったのが罰当たりだったのか。


背後の殺気に感づいた時には既に遅くー






身を挺して主を護るしかなかったー




誰かが自分の犠牲になる。主石田三成が一番嫌う事−





−−−




溜め息が出る。
常駐してくれている医師の話しでは面会人は沢山来たが、その中に三成はいなかったと言う。


それもそうだ。
自分が寝込めば主に執務が集中する。



「……きっと寝ていないんだろうねぇ」


責任感の強い方だ。ぎりぎりまで自分を追い詰めているに違いない。

痛む肩から斬り降ろされ胸部にまで達した傷よりも、主が苛酷な執務に追われていると思って痛む胸の内の方がずっと耐え難い。


目だけを動かせばまだ夜は明けていないようで部屋が墨を零したかのように暗い。




口が渇いて喉が焼け付くようだ。
容態は安定したと言う事で夜、医師は別室に控えている。


こんな事で呼ぶのもなんだと、水差しを探していると障子に−外が見たいと左近が言った為−月明かりで影が映っていた。





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