駄文

□水鏡、戯る狐
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−やられた−


食えない。
この男はどうしても操る事が出来ない。
気が付けば言いようにされているのは自分の方だ。





「…で、本当は?」



優しげに微笑む。
心底左近が羨ましいと思った。





漆黒の髪に、
男らしい精悍な顔、男ぶりを上げる頬の傷痕。
全てが猛々しい造りに笑顔が似合う。暖かい笑顔が。





自分の笑顔を想像するが気味が悪い。


「左近には本当の事を教えて下さい」


頭を包み込まれ、それが当たり前のように胸に顔を埋める。
回りが気になるが、今はこうしていたかった。



「左近は…どう思う?」


「?」


「……俺の目、冷たいと思うか?」


身長差で自然に三成が左近を見上げるようになる。


「えぇ…まぁ、涼やかな目元をなさってますが…」


「そうか…」


しょぼんと顔を俯かせる。主の一挙一動に心が動かされる。子供のような態度に呆れのではない、言うなれば子の我が儘を愛しさ故に許してしまう親に似た溜め息を落とす。



「殿は嫌ですか?」


「…嫌だと言っても仕様がない事だ」


「殿は分かっていらっしゃらない…」


怪訝な顔をして再び顔を見上げる。
白雪の肌に赤みがかった茶の髪が映える。
可愛さが暖かみ、冷たさが美しさなら間違いなく主は冷たい。





「殿の冷たさは花の刺のようなものです」

「…?」



花のように美しい主。しかし花には『冷徹』という刺がある。
おかげで誰にも摘み取られず美しく咲いていられる。
『冷たさ』は三成にとって身を守る術の一つなのだ。



「殿がお優しいの左近がは知っております……左近だけでは足りませんか?」


三成は優しい。が言葉が足りず、勘違いされる事が多々ある。罵倒されれば傷つくし、誰にも見せないが、悩む、涙を流す。
怒りはよく表すがその他の感情はなかなか面に現す事が出来ない。


美しく、いじましい我が主。





それに−





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