駄文
□水鏡、戯る狐
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−冷たい目−
巫女と称する女は自分に言った。
以来、己の顔をまじまじと見詰めるようになっている自分がいたー…
−−−−−
今日もたまたま、池を見つけて、水面に映った自分の顔を覗き込む。
確かに、冷たい目だ−
三成は思った。
赤や茶は人に暖かみを感じさせる色だと言う。
なのに、自分の顔は暖かみを感じさせる所か、人を凍らせるような冷たさを帯びていた。
両手を目尻に当て、吊り上がり気味の目を下げてみる。
だが、目尻を下げてみても冷たさは消えず、ただ馬鹿らしさが三成に溜め息をつかせた。
「……冷たい目…」
他人がどう思おうと関係無い。しかし−
「…左近…」
自分の想い人には、そう思われたくない。『横柄者』と世に名高い三成が体裁を気にする数少ない人の一人、
石田家家老、島左近
家老とは言うが、三成には家老以上の存在であり、相思相愛の恋仲である。
髪も瞳も暖かい茶の色 。なのに、
同じような色を持つ、太閤夫人はあんなにも明るく暖かいのに。
何が違うのか。
池の縁に手をかけ、水面に顔を近付ける。
暫くすると堪えていたような、聞き覚えのある人をくったような笑い声が聞こえてきた。
己のしていた事の幼さに気付き、慌てて体を起こす。近付き過ぎたのか前髪の先が水鏡に触れ、波紋を走らせる。
「何かいましたか?」
「左近…」
木に寄りかかり腕組みをしてこちらを見ている、家臣を睨み付ける。
家来ならば、主からの、殺気すら放つこの視線に耐えられない筈なのに、左近はどこ吹く風で膝をついていた三成に見下ろしていた。
視線を先に外したのは三成の方だった。
どうも三成は左近の 何か含みのある、−策を練る時に酷似した−表情が苦手だ。迂闊に喋ると何もかも吐いてしまいそうだから。
「……金魚だ」
「ほぅ…」
膝の土を払いながら立ち上がる。
直ぐに低いこもった笑い声が聞こえた。
「…何が可笑しい」
「いや…先程左近が見た時は何もいなかったのに殿は金魚がいるというから、ついね」