駄文

□解語の華。
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前方から、男が−三成は一目でこの男が主の友人だと分かった−三成の元に足早に駆け寄って来た、


「秀吉の親戚って言うからどんな牝猿かと思えば…」


左近に預けていたたおやかな手を奪い取り、握ると三成に体を接近させる、思わず三成の背が反ってしまう。


−気にいらないねぇ−

「何てお美しい御姫様なんだ…お名前は?」

邂逅では男とバレなかったが本名を名乗る分けにはいかない、すっかり困ってしまって左近に助けを求める。



「『咲姫』(さきひめ)様と申されます」


返事したのが、本人でないのが不服のようで、訝し気に左近を睨む。


「あんた…誰だい?」


「俺は島左近、貴方は確か…雑賀の孫市殿」


「孫市でいい。それより何であんたが答えちゃうかなぁ。」



「姫様は長旅の疲労で軽いお風邪を召されてしまってね…掠れた声が恥ずかしくて聞かせたくないんだそうで」



好意の持てない相手に口調は大分適当でぶっきらぼうになってしまっている。

孫市もそれは同じのようで、



「咲姫…名前の通り、花が咲き乱れるようにお美しい…しかも掠れた声が恥ずかしいとは…」


左近を無視し、すっかり三成を美女と勘違いしているようだ。



「貴女の美貌には花も恥じらい、月も光りを消す…傾世傾国とは貴女のような美女を」



ぱっ、と握っていた手を奪い返し、左近はにこりと、明らかな造り笑いを浮かべる


「廊下では姫のお体に障る、先ずは部屋に行きませんか?」


「…ふん」



三成は頭上で何やら殺気立っているのを感じた。





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