駄文

□解語の華。
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「何なんだか…一体」

今朝は城が何やら騒がしい。
特に侍女達があちらこちらを走り回り、時折きゃいきゃいと楽しそうに話しをしている。


頭を傾げながら主の元に参じようとすれば、部屋が近付くにつれ、侍女の数も増えていった。



「今日は槍でも降るのかねぇ…?」


女嫌いとまではいかなくとも、あの堅物な主が侍女を用事も無いのに自室に招く筈が無い。


考え込む時の癖、
顎に手をやり、摩り摩り主の部屋まで行くと襖が開いた。


「おや…」


そこに居たのは、自分より二廻りは小さい、明るい茶髪の持ち主。

「あらー左近じゃない!」


「これはこれは…奥方様」


恭しく挨拶をすると、笑いながら僅かに眉を寄せて


「その『奥方様』ての止めてくれない?老けたみたいで嫌だよ」


「失礼しました。おねね様」


「分かればよろしい!」



「ところで…何故奥方…おねね様が殿の部屋から?」


その台詞を待っていましたとばかりに、にこりと笑うと


「御姫(おひい)様に失礼無いようにね!」

と部屋に入るように左近に促した。


何を言っているのか−


だが歩を進めて行くと、ねねの言葉の意味が理解出来た。




「…これは、よく化けましたね殿」






卯の花襲ねの打ち掛けには様々な色の絹糸で模様が描かれ、中は淡い、紫とも青ともつかない色に、足元の方は霧を吹き付けたような白の着物、濃い藍の帯。

髪は女に比べればずっと短いが、短いなりにも油で梳いて華簪を刺してある。


顔は元から白いが、お白粉がうっすらとのり、唇は椿の花びらのように紅い。




「俺は狐か狸か…」


声を出せば男と分かり、更に美しくなった顔を歪める。



余りの美しさに、阿呆のように見取れてしまい返事が遅れた。


「じろじろ見るな、不快だ。」


「いやぁ…かぐやか、乙姫かと見間違う美しいさでうっかり」



何時もより小振りで、華やかな扇で頭を叩かれる。



「こーらっ!」


左近の背後から元気の良い声がする。左近が体をずらすと三成の視界にも確認出来た。




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