駄文
□篠突く雨、皐月闇
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灯りが点ったから安心したんじゃない、
左近が、
自分を夜闇から守って、優しく包んでくれる人が来たから
俺は安心したのだ−
「左近…!」
退室しようとする左近の着物の端を掴む。
「?殿?どうしました?」
「俺は…眠い!今寝惚けているから寝言を言うかも知れん!」
顔に熱が上る。つくづく素直でないが、左近はそこまで分かっているだろう、くるりと身を三成の方に向けた。
「はい…それで?」
「…俺、は…」
「はい」
「怖いのだ…」
這いつくばるように布団から出てきていた三成の視線と合うように膝をつく。
「…死ぬ事とか…考え始めると…怖くて…」
至らない自分。左近が愛想を尽かせて、憤りを感じて自分を見放してしまうのが今は怖い。
「さこん…」
怖くて視線を合わせられない。
次に目線を上げると
ぎゅう、と
暖かい腕、暖かい彼の者の懐に収まっている自分−
「…そんな事を考えていたとは…」
「左近」
がっしりとした、自分には逆立ちしても手に入らないような逞しい肩口に顔を埋める−
「もっと早くに気付いて差し上げれば…」
錆声がしとしとと、−激しい篠を突くような雨でなく−胸に染みる。
「もういい大人なのに…恥ずかしい奴だ、俺は」
髪を梳く指が、優しいあの主の手よりずっと武骨な指が、心地良い。
「そんな事、ありませんよ…左近も同じです」
左近のその言葉に三成は僅かに驚いた。
いつもは飄々として、大人なこの者も、そんな風に恐怖を感じる事があるとは
「殿を知ってから、左近も死が怖くなった−」
寄り掛かっていた体を起こし、顔を見詰める。困ったように微笑っていた。
「−…え?」
「殿のお側を離れる事が辛い、殿が先に不帰の客になる事はもっと辛い…恐ろしくて眠れない事もあります」
−そうだったのか−
自分がまた、死を考えるようになった理由は−…