駄文
□篠突く雨、皐月闇
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ざぁ、と
夜中に覚醒をもたらした水音は
盥をひっくり返したように激しい雨が降りだした事を伝えていて−
三成はうんざりした。
雨は眠りを妨げ、無用な事を考えるようになり…
考え無いようにすればする程、考察は深くなって行き、最後は決まって恐ろしさと心細さに襲われる−
−幼い頃の自分と何も変わらない−
自嘲気味に笑うと、無理にでも意識をもう一度眠りに引き込もうと、固く目を瞑る。
あぁ誰か−
誰かじゃない、自分を夜闇から、皐月闇から、死の闇から
守ってくれて、優しく包んでくれるのは−
彼の者一人。
「…左近」
居ないのに名を呼ぶ。少しだけ、不安が和らいだ気がする−
「殿」
全身の毛が逆立つようだ、彼の者がこんな夜更けに、こんな所に居るはずがない−
「左、近?」
今度は独白ではなく、呼び掛けるように名を呼ぶ。
「失礼します」
襖が開いた。漆黒の髪に頬の傷−
会いたかった−
素直でないのは昔から、嬉しさを押さえて、なるべく普段のような素っ気ない声をだす。
「こんな時分に…何をしている?」
「急な雨に風で、灯りが消えまして…灯りを取りに行った帰りで名前を呼ばれたんで…」
よく見れば畳についた手の脇に、小さな紙燭が置かれていた−
「…此処にも火をくれないか?」
「殿が眠られてまだいくらも経っていませんが…」
「良い、雨音が五月蝿くて眠れない」
あまり乗り気では無いが主が命じるなら従わなければならない。
ほぅ、と柔らかな明かりが部屋を満たす、左近の顔がはっきり見えて安堵する。
「…」
「……」
呼んでみたものの、用等無いし、あるとしてもあまりに子供のようで言い出せる訳がない
起き上がり、点した灯を見詰める。
「では」
鼓動が速まるのを感じた。
「左近は執務が残っていますので退がらせてもらいます」
−嫌だ−