駄文
□はちす葉の露珠
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主を害した罪人を片付けると、すぐさま抱き起こす。
顔は蒼白なのに、抱き起こした手は、腕は、声は温かく、堪えていた涙が頬を伝った。
記憶はそこまで−
ぶっつりと切り取られたように後の事が思い出せない。
気を失ったから−
「左近」
「はい」
「起きる」
「駄目です」
「左近」
「傷口が開いてしまうかも知れません。駄目です」
「左近…頼む」
左近は三成に甘い。
お願い事をされれば、嫌とは言えない。
そぅ、と壊れ物を扱うように上半身だけを起こしてやり、上掛けを肩に掛ける。
「あの子供には…悪い事をした」
自分が避けていれば、彼の者からの制裁はもっと軽いものになったのかも知れない。
「殿の命が危うかったのです。容赦は出来ませんでした」
「……」
「…殿、ご自分をお責めになるな」
「…俺は」
「分からない…」
一揆を放っておけば各地に飛び火し、領内だけでは収まりがつかなくなる。
その前に小さな芽でも潰しておく。最小限の犠牲で済ませる。
義の世、清廉な世の為に−
仇、と呼ばれた。憎悪が向けられた。
−大一大万大吉−
皆の為にした事なのに−
「子供を殺したのは左近であって殿ではありません」
「俺の半身がやった事だ、俺のせいだ」
半身などと、
嬉しい事を言ってくれるが面には出さない。
殿がこんな顔しているのに−
美しさはそのままで、愁いが影を差し、突然霞のように消えてしまいそうな儚い顔−
この顔を見る度、左近はいつも抱きしめて温もりを確認したくなる。
「左近…寒い」
抱け、という事か