駄文

□花は桜木、人は武士。
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「左近っっ!!!」




「殿−…」





しっかりと愛する者を抱きしめる。



「勝敗…は?」


「勝った…!勝ったぞ。幸村がやってくれた」



「それは…良かった…積年の願い叶…い慶ばしく…思い…ます」

切れ切れの言葉、浅い息遣いが痛々しい。


「そうだ…勝ったんだ。だからもう、立っていなくても良いんだ」

流れる血が己の服にも滲む。


「殿」


片腕が背に回る−


「左近、左近、左近…」


縋り付きたいのはきっと左近の方なのに




「殿…泣かないで下さい」



−最期まで自分が縋ってしまっている−



「左…近、左近」


伝えなくてはいけない言葉が沢山あるのに、鳴咽が邪魔をする。



「左近…さっ」


「殿?」


見上げると、信じられない位の、優しい笑顔が降ってきた。


最期まで自分は彼に気を使わせている。
彼も泣きたいと、痛いと弱音を吐きたいと、縋り付きたい、筈なのに−







「殿…花は桜木、人は武士…と言い…ます」



これは別れの言葉だ−





「左近は…」






永遠の別離の言葉−








「嫌だ!!」


最期まで、彼に迷惑をかけてしまう己が惨めだ。


「嫌だ!嫌だ!!聞きたく無い!!!嫌だ!」


首に回した腕に力を込める。





力を緩めたらどこかへ行ってしまいそうで、




「殿」


「五月蝿い!黙れ!!言うな!言うな…」


「殿」


「嫌だ…」





−縋れる望みを残しておいて−




「と」


「お前が死んだら俺も死んでやる!!お前がいないならこの世なんか、天下何か、いらない!!」



酷い言葉で彼を繋ぎ止めようとする、浅ましく汚い自分。


「潔く散るのが良い事と誰が決めた!?何故皆死に急ぐ!?何故泥に塗れても生きようとしない!!?」


「殿」


もう、あの笑顔は見れない。


涙が溢れて零れて溢れて。地に涙が浸みる。
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