駄文

□花は桜木、人は武士。
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恐ろしかった−





血に塗れた彼を、彼から滴る、目眩がするような紅い血を−



彼が近づく、血の足跡を残しながら、足を引きずりながら−





深手を負いながらも、眼光鋭く、自分を見据え−











−それが恐ろしかった−







「左近」

後ろに引こうとする足を、何とか留める。



−恐ろしい−




「生きているか」



こんな在り来りな事しか言えない−




鼓動が一気に限界を突破する、吐き気がする。傷を負ったのは彼なのに、自分の方が死んでしまいそうだ−





−島左近、敵鉄砲隊の奇襲により負傷−





真田幸村の援軍により、士気は上がり、劣勢を逆転出来るという光りが見えた時の、絶望的な報告−








愛する者の悲報に、泣き暮れている暇など、自分には無かった。









自分は天下を賭けた戦の総大将なのだから−




そう、自分に言い聞かせて先陣へと発つ。




でなければ、自分は立っている事もままならない−







在り来りな言葉に全てを込める−





仏など、信じた事無かった。願った事も祈った事も−





でも今は−…












かの者を助けてくれるのなら











仏だろうが魔だろうが何だって良い−







−奴を、左近を、愛する者を−











−助けて下さい−
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