企廓書庫
□塞ぐ恋情、切実なる愛情
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恋慕だと気付かなければ、欲しいと思った相手が、気付いてしまうと、そうで無かったらと思う。
「顔色が悪いようですが…大丈夫ですか?」
左近の掌が三成の頬に伸びる。
すんでに三成の手が左近の掌を遮った。
以前には素直に受け入れられた、左近の掌が、気遣いが苦しい。
「…問題ない」
頭が痛い。最近は例の夢の所為で眠りが浅い。−三成自身は気付いていないが、気欝も三成の具合を悪くしていた−
そうですか、と柔らかい声音が返ってきた。
表情は分からない。恋慕を自覚してから左近とまともに目を合わせていないからだ。
見つめていた左近の足が横へと移る。正面にいた左近が避けた。どうぞお進み下さいと左近は物言わず告げた。
左近を遠ざけようとする度に、じくじくと胸の辺りが膿んだように痛んだ。
もしも、
三成が膿んだ想いを左近に告げたら。
どう考えても己が左近の主である限り、自分の想いが想ったまま伝わるとはどうにも思えない。
大体、左近は己の志に応えて三成の元に参じてくれたのだ。
左近の気概に、己の抱くふやけた思いを返してはならない。
自らの胸が痛もうと、左近を失望させる方が三成にはずっと辛い事であった。ある筈なのだ。
恋慕など忘れてしまわねばならない。
まだ、己の感情を知っているのは自分だけなのだから、簡単な事だ。
なのに、何故こんなにも辛いのだろう。
叶わぬ恋を想い続けるのは辛い。忘れるのは更に辛い。
頭が痛い。
割れるようだ。
刹那、地が揺れた。
嗚呼、あの縁が遂に壊れたのか。
三成は遠くで思う。
「殿っっ!!」
声の方を向けば左近が血相を変えて、こちらに走り寄って来る。
三成は夢と現が混濁して、どうせ夢なのだ、だったら思いきって縋ってみようと手を伸ばした。
左近に届いたかどうかは分からない。
真っ暗闇だ。
とうとう淵に落ちたらしい。
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