其ノ弐
□最初が肝心とか言うけど人見知りには最初から不利
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左近は酒気を帯びた熱い息を吐いた。
この郭は良い。
酒は上手いし女は美しい。音曲は絶えず、笑い声に溢れる。
男衆も気が利いていて、左近が言わずとも動いてくれていた。
郭の日々は楽しい。
しかし、いつかここよりも楽しく、血が滾るような愉悦を与えてくれる主はいないか。左近は再び杯を煽った。
その時
「旦那さま」
郭の小僧が襖越しに左近を呼んだ。どうしたと問えば襖が開き、やはり馴染みの小僧が人が来ておりますと告げた。
「男には会わんぞ」
「ええと…男の方ではありま…ありません」
器用に片眉だけを上げ、左近は小僧の様子がおかしいと気付いた。
平素ははきはきとした小僧だが、今は何やら歯切れの悪い話し方だ。それに襖が開いてからもしきりに背後を気にして、まるで背に虎がいるようにびくついている。
士官せぬ自分に業を煮やした大名家の刺客か。左近は用心しながらも、通せ。と言いかけたその時。
「…!」
左近は懐に手を入れ刀を引き出すと、そのまま鞘から抜き放った。
暗い廊下、襖の隙間からすらりと銀の光りが覗いた。明らかに刃の光りだ。
長さから見て刀。否、更に銀光は伸びる。槍か。薙刀か。
左近はぎょっとした。
ずいと姿を表したのは湾曲した刃。
一瞬だった。
まるで虎か獅子が獲物を撫ぐかのように、襖を切り裂いてしまった。
「何者だっ!?」
切り伏せられた襖の向こうの人影に、左近は愕然とした。
「何者かだと…お…私達は…くっ…ちょ、清正この出っ張り切れ!」
「あの、」
シリアスパートだと勘違いしていた左近はいきなりのぐだぐだ感に戸惑う。
だが、敵は左近の戸惑いには気付かずにパネルを小脇に抱えて部屋へと踏み込んできた。
「えと…」
「長女の三子!」
黙っていれば、自称するように女子に見えるだろう。だが、如何せん声ががっつり男だ。
自称長女の三子は抱えていたパネルをがつんと設置する。設置した勢いでパネルの足が曲がってしまっている。
「次女の正子!」
パネルを指して正子とは言うが、明らかに男子だ。何なら盗んだ●イクで走り出しそうな正統派のヤンキー顔だ。
ここまで来るとオチが怖い。何故ならパネルの左脇にいるのは、大鎌を携えた六尺はありそうな銀髪の大男だからだ。
「…」
『…
三女のシルヴィアでございます(そのまんまの声色で)』
「まさかの片仮名名前!ー?」
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