其ノ弐

□最初が肝心とか言うけど人見知りには最初から不利
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とある噂が立った。

島左近が筒井家を出奔した。

島左近と言えば、軍略家であり、武人と名乗れば相対する者は身を震わせる知勇兼備の将である。

そんな有能な男が牢人となったのである。何処の大名家もこぞって左近を雇おうと躍起になった。

ある大名家は富を。
ある大名は地位を。
ある大名は権力を。
他にも粋人としても名高い左近が喜びそうな珍かな茶碗や、南蛮の珍品。とある大名家などは自分の娘を差し出すなどと言って話しを持ち掛けたという。

しかし、そのどれにも左近は首を縦には降らなかった。
いよいよ大名達が喧しくなってきた矢先、その噂はもたらされた。

左近は男には会わない。
士官の申し出に表れるのは皆男。故に左近は馴染みの遊郭で毎日を過ごし、郭(みせ)の者でない男には決して会わなくなったのだという。












「ふん、勿体つけているだけだろう」

散々焦らして条件を吊り上げてから主を決める。そんな所だと三成は鼻を鳴らした。

『そう言って、今更怖じけづいたか。三成』

清正の言葉に三成が柳眉をぴくりと上げる。

「ここまで来て退いては武士の名折れだぞ。清正。俺が貴様の挑発にのって“自信がないのは貴様だろう。ならば帰って俺の果報を待つのだな"と言わせたいようだが、そうはいかぬ」

今度は三成の言葉に清正が眉根に皺を寄せた。

「これは勝負だ」

『言われなくても分かってるよ、馬鹿』

「『島左近を士官させた方が勝ち』」



先の噂を聞き、二人は(正確には三人だったが)ある勝負をする事にした。
まだ若輩の自分達が戦国の猛者を配下に降す事が出来たら名誉だ。

三成が降せば、三成に足りない武を補う戦力になる事は間違いない。引いては豊臣家繁栄の一端だ。清正が降せば自分の配下ではなく、父と慕う秀吉の配下とするとした。どちらにせよ豊臣が天下に躍進する大きな翼になるだろう。

丁度小さな子供達が度胸試しをするような勝負だ。


二人は暫く見上げていた郭の扉を開いた。賑やかな花柳街なのに、何故か彼らの周りには人は寄り付こうとはしなかった




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