其ノ弐
□小咄詰め
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虎嘯・2011-10-01
こんな筈じゃなかった。
死骸に群がる烏が如く、或は獲物を取り囲む山犬が如く。
ぎゃいぎゃいわぁわぁ
彼らの視線は馬上の一人に向けられている。
ぎりりと縄で締め上げられた白装束は大罪の証。
馬の揺れに合わせ、赤髪がゆらり、ゆらりと揺れる
昔のように勝利の凱旋をしたあの時のように、彼は気高く道を行く。
道の両端には数多の民衆が集まり、誹謗、中傷、嘲笑あらゆる下卑た感情を彼に向けていた。
清正は、そんな光景を見るともなしに見ていた。
事実だと受け入れられないのだ。
あまりの衝撃に何も考えられない。ただわなわなとした得体の知れない感情が腹の底から沸いていた。
違う、俺は。
俺は家を豊臣の家を守る為に。
こんな事を望んだんじゃない。
こんな筈じゃ
こんな筈じゃ
不意に、
この豊臣の恥さらしめが
という声が聞こえて来た、瞬間。
「黙れっっ!!」
腹の底で滾っていた怒りが爆発した。
そんな鶴の一声ならぬ虎の一吠えに辺りが静まり返る。
黙れ。
勇敢なる者に、
俺の
俺の家族を馬鹿にするな馬鹿共。
刹那、ただ前だけを見ていた三成の顔がこちらを向いて、
目が合った。
一日千秋と言う言葉があるが、清正はこの視線が合った瞬間が長くゆったりとした永遠のもののように思われた。
夕暮れが深まるのを見ながら家路に着いた子供の頃、その時のような。
三成の顔、あんなに綺麗だったろうか。
「馬鹿…」
音は無く、唇が紡いだ言葉。
かたじけない
「馬鹿…は俺か」
もう戻ってはこないものの大きさに、
虎は初めて涙した。