其ノ弐
□異世恋歌
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「好きだ」
投げつけるような物言いだった。
馬岱はぽかん、と口を開けている。
幕舎の外からの音が大きくなった。
暫くして馬岱は思い出したように片方だけ口角を上げた。
「な、何よ。急に」
「好きだから好きだと言っている」
馬超の言葉に、馬岱は眉を八の字にさせて笑う。
「改めて言われると恥ずかしいよねぇ…俺も大好きだよ、若
若みたいな格好いい従兄弟がいて、俺は幸せ者だよ」
はっきりした事は馬超には言えないが、確実な何かがすれ違っている気がする。
「違うっ!」
戦場もかくやと言う大音声で馬超は否定した。間違ってはいない。いないのだが、違う。
案の定馬岱も訳が分からないとでも言うように小首を傾げている。
「何が?」
「好きなんだ!馬岱!」
「だぁから、俺も好きだって」
「違う!好きじゃない」
「はぁ?」
「好きじゃない、愛している!」
「あぁ、俺もだよ。若と俺はたった二人の従兄弟だもん」
「あああああああああああ!!」
頭を抱えのけ反らんばかりの馬超を抑えるべく馬岱も立ち上がる。
おかしい。何故だ。義友の長政夫妻を今日の為に数日間観察していたが、彼らは好きだと言ったら嬉しい長政様と頬を染め、抱き合っていた。
「何々なに!?もう本当どうしたの?」
ご近所迷惑だから、
と、言って馬超の肩に手をかけかけた瞬間、逆に馬岱は肩を押された。
二人は簡易的な寝台になだれ込むように倒れた。
堪らないのは馬岱だ。二人分の体重を受け、したたかに打ち付けた背中の痛みに呻いていると、不意に影が近付いてくる。
「ちょい、わっ、か…!何しようとしてるのっ!」
急接近して来た馬超の顔を両手で防ぐ。そんな馬岱の両手を馬超は渾身の力で剥がしにかかる。端から見ればその光景は愛の告白何て甘いものには見えない。言うなれば兄弟の取っ組み合いの喧嘩だ。
「接吻しようとしている。好きだ。愛している」
「酔ってるよねぇ」
「この目を見ても、そう言えるか?」
視線が搗ち合うと、平素飄々とした馬岱の顔が強張った。
馬超が好きな、灰色にも青にもつかない淡い色の双眸が揺らいでいる。
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