其ノ弐
□異世恋歌
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本拠地の夜は仄明るい。
原因はぐるりと囲むように広がる岩漿の海。仙術により熱やら沸き上がる障気などを防がられると、それは天然の要害となった。
「確かに静かに呑むには若の幕舎が一番だねぇ」
その中で特に見晴らしの良い場所に馬超の幕舎はあった。岩漿から遠からず近からずで幕舎は翠帳のような雰囲気があった。告白するにはうってつけの情緒、だが。
「ほらほら呑んで呑んでー」
言って馬岱は馬超の杯になみなみと酒を注ぐ。
馬超は失念していた。
馬岱は馬超より酒に強い事を。
そうでなくても、馬超はこれまで一度も馬岱が酔い潰れたり、酔いに任せて乱れたりする様を見た事が無い。
「これ、幸村殿に無理言ってさ、譲ってもらった倭国のお酒なんだ。美味しいねぇ?」
若、
言って杯を振る馬岱が恨めしい。
“杯を空けたら告げよう"と思っていると言うのに、この従弟は先から干すか干さないかと言う所で足してくる。
ええい馬岱め
普段あれだけ聡いくせに何故こんな時に限って鈍い!
あれか。
実は俺の気持ちを知っていてわざとやっているのか。そうなのか。そうなんだな。だからこんなにも俺に呑ませているんだな。自分はばくばくばくばくつまみを食べて俺を酔い潰そうとしているんだな(因みに馬岱の名誉の為に記しておくが、馬超が勘繰るような謀策では無く、ただ単純に珍かな酒を馬超に呑ませたいだけだ)
よし、お前がそう来るなら受けて立とう!
俺は西涼の錦馬超!(二回目)
回り始めた酔いにつられるように、回るおかしな思考。馬超は再び自己を奮い立たせ、おもむろに立ち上がった。
「……若?」
座ったままの馬岱が従兄を見上げる。やや目が据わっている気がする。
すると、馬超は滴るように注がれた杯を煽った。
口から零れ、首を伝う感触がするが、お構いなしに杯を傾けた。
「わっ、わっ、若〜!一気飲みは身体に悪いってば!」
馬岱が言い終わる前に、馬超は杯からぷはっ、と口を離した。
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