其ノ弐

□異世恋歌
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「では、幸村殿のお相手は某が仕ろう。馬岱殿は馬超殿を…」

「有難うホウ徳殿。この借りは今度返すね」

言いながら、杯を傾ける仕種をする。だがホウ徳は

「酒肴では無く戦場での働きでお頼み申す」

と言った。馬岱が困ったようにホウ徳殿には敵わないよと笑った。


その様子を馬超は見ていた。そして明らかにおかしい事に気付く。
視線が馬岱から外せない。



理由は分かっている
あの日、あの時、馬超は痛い程思い知らされた。

馬岱の遺骸を見た瞬間、息が止まった。

ホウ徳の遺骸を見た以上の衝撃だった。
深い川に突き落とされたような苦しみと、身がずたずたに引き裂かれたような痛みと、

そして

馬超が馬岱を愛していたと言う真実。

馬岱を愛していた真実とその馬岱が死んでしまっている事実に、馬超は気が狂わんばかりに慟哭した。


もしも。
もしも馬岱が生きていたのなら−…












「若ーあんまり考え事してると額が諸葛誕殿みたくなっちゃうよぉ?」

えい、と馬岱が馬超の眉間をぐいぐい指で押す。
馬超が血涙を流す程に望んだ“もしも"が目の前にある。

ある
あるのだが。

望むものをいざ目の前に差し出されると、あれやこれやと悩むのが人の性と言うものでは無いだろうか。

しかし元が良く言えば快活、悪く言えば性急な性格をしている馬超は悩むのを止めた。

そうだ、俺は西涼の錦馬超。悩む暇があるのならひたすら突き進むのみ!


「馬岱、俺に付き合え」

言うや、馬岱は苦い物でも飲み込んだように口を歪ませ呻いた。大体従兄の誘いが鍛練故の反応だ。
馬超は軽くため息を吐く。


「鍛練では無い。たまには二人で酒を酌み交わすのも良いだろう」

途端、馬岱の顔が喜色に溢れる。

「それなら大歓迎だよ〜パーッとやろう〜!」

ともすれば−主に容姿の所為で−馬岱が兄で馬超が弟と間違われたりするが、馬超からすればこんな事ではしゃぐ馬岱は可愛い弟にしか見えない。

「では夜に俺の幕舎で良いか」

「え?飯店じゃないの?」


飯店は商魂逞しい店主がこの妖蛇打倒軍の本拠地に構えた、美酒と珍味を取り揃えた優良な店だ。

「二人で語らいたい」

「あー…うん、じゃあ夜に若の幕舎でね。肴は俺にお任せってね!」

じゃあね!と馬岱は橋を渡っていった。



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