企廓書庫

□唐獅子牡丹狂い舞い
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現れたのは石田家家老島左近であった。


「あああ頭が!!頭がぁあああ!!!」

額を押さえ転げ回る兼続(天罰)を余所に幸村は左近に怒りを現わにする。


「左近っ!!貴様主の大事をこんな変態腐れ烏賊に任せて何処に行っていた!!?返答しだいでは貴様の砲丸(比喩表現)千切り取って目の前で握り潰してやるからなっ!!!!!」


「恐ろしい事言いますね、殿」


「当たり前だ!!危うく俺の唇が−…唇……が…」



今迄は頭に血が昇り、左近しか見えていなかったが
左近の脇にはよく見知った人物がいた。


蘇芳色の髪に白皙の肌、吊り上がり気味の怜悧な瞳に薄い唇。


「俺が…二人……?」


幸村は左近の隣に控える三成を見てしばし呆然となる。世の中には自分に似ている者が三人はいると言うがそんな次元ではない。

そっくりそのまま石田三成なのである。
目眩すら起きそうな光景に絶句していると左近は息を吐いた。


「…違います。殿が幸村殿の中に入ってしまったのですよ」









稀にあるらしい。
二人揃って激しい衝撃を受けたりすると一度魂が驚いて飛び出し、戻る時に体を間違えてしまう事が。


「では、俺が幸村に、幸村が俺の体に入ってしまったのか…」


「そのようです…申し訳ありません」


しゅん、と項垂れて見せる幸村(外見は三成)にお前の所為では無いと告げてやる。
信じたくない、信じられない事だが現にこうして己が目の当たりにしているのだから信じないわけがない。


三人寄らば文殊の智恵と言うがこれは流石の文殊菩薩と言えど打開策を見出だすのは難しかろう。


「取り敢えず身の安静の為に幸村殿には佐和山に滞在して貰うとは上田に伝えておきました」


「ふむ…こんな事誰に言っても信じられんだろうが混乱は避けるには内密にしておくのが良策だろうな。」


「では、私が三成殿を、三成殿が私を演じるという事ですか……上手く三成殿になりきれるでしょうか」


問題はそこだ。
素直な幸村と、そうでない性格の三成。

だが、出来ないとは言えない、やらねばならぬのだ。



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