企廓書庫
□唐獅子牡丹狂い舞い
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それから二日。
戦場から近いと言う理由で土砂崩れに巻き込まれた二人は佐和山城に運び込まれていた。
「私がついていながら…すまない三成!幸村!」
昏々と眠る幸村の枕元で俯き、そう声を搾り出すのは先の討伐戦を共に戦っていた直江山城守兼続だ。
「幸村…
……」
まじと改めて幸村の顔を見てみると、三成の様に際立つ美しさでは無いがなかなかに良い造りだ。
清らかな漆黒の髪、
整った眉に、瞑る瞼を縁取る睫毛は男としては長く豊か。
全体を見ればあどけなさを残した、美しいというよりは可愛らしい印象だ。
因みに
この直江兼続という男、
黙ってさえいれば三成、幸村にも劣らない容色なのだが、一刻として黙っていられないのが最大の欠点であり、美点…であるかも知れない。
しかも師と仰ぐのがあの越後の竜、上杉謙信。
毘沙門天を篤く信仰し、法力を使う謙信の薫陶を受け継いだ彼は法力は勿論だがたま(時々…いや、頻繁)に何処かこことは違う世界と交信を始めてしまう事があった。
あちらの世界の常識は、こちらの世界の非常識。
それでよく三成に気色悪がられては、佐和山城から蹴出されていた。
「ここは私の愛と義溢れる接吻で幸村を目覚めさせるしか……!」
大変ご立派な決意ではあるが、寝入って抵抗出来ぬ者に接吻をかまそうなどと彼の嫌う不義そのものではなかろうか。
幸村の肩をがしりと掴むと鼻息荒く自慢の艶唇を幸村の形の良い唇へと寄せる。
哀れ、可愛い仔羊は、義という名目の魔の手に犯されてしまうのか!!
ぱち、
と幸村が二日ぶりに目覚めた。天は彼を見捨てなかった。
既の所で兼続も動きを止める。
幸村は二、三度瞬きを繰り返しぼんやりとした双眸で、辺りを見回し、至近距離に兼続の顔があると分かると一気に怪訝な顔になった。
怪訝と言うより寧ろ嫌悪の表情である。
「う…!」
「『う』?どうした幸村っ!!?つわりか!?」
「わぁぁああああああ!!!(頭突き発動)」
「ぎゃあああああ!!!!(クリーンヒット)」
「ああ!やっぱり!!」
すぱん、と襖が敷居を滑り、小気味よい音を立てた。
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