企廓書庫
□唐獅子牡丹狂い舞い
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雨上がりの戦は山賊討伐。
天下を揺るがすような大戦では無いが、こういった小さな賊でも放って置けば、いずれ豊臣政権の元に布かれた安寧の世を乱す芽になるやも知れない。
だが、歴戦の猛者を出すにはあまりに華の無い戦は、必然的に経験の浅い若武者が駆り出される。
故に、
将来有望な、石田三成、真田幸村、直江兼続は縁あってか三人揃って討伐軍に組み込まれていた。
「ここはあらかた散らしたか…」
ぱちん、と優美な扇を、これまた優美な顔の美丈夫が手中に収める。
美しい顔なのだが、今は明らかに不機嫌そうだ。
「三成殿!」
ともすれば近寄り難い雰囲気を醸し出す男に躊躇いなく声かける男が一人、
緋色の備えにたなびく鉢金。
凛々しい顔立ちに、芯の強そうな眼差しは父に似ている。
軍略家、真田昌幸が次男。真田幸村その人だ。
幸村に気付くと僅かだが三成の纏う空気の刺が抜ける。
幸村は三成にとって数少ない友人であり、弟のような存在であった。
「幸村か…首尾はどうだ?」
「どうやらこ度の賊軍は小さな賊同士が組み合ったものらしく一応頭と思われる者の首を上げましたが…総大将は奥に潜んでいるでしょうね」
「流石だな幸村」
幸村は三成の賛辞にいえ、と頬を赤くして謙遜した。
こんな時の幸村は実年齢よりも幼く見えて好ましい。
自分に無い眩しい美点に三成も連られて柔らかに微笑んだ。
「山賊に山で対峙するのは愚かしいな。三里程追って押し出してしまうか」
くるりと背を見せ山を扇で指す。
采配の取れた兵共はそれを合図に斜面を駆け上がっていった。
「あ、三成殿」
「何だ?」
「私の手飼いの者からの報告なのですが、昨日からの豪雨で地が緩くなって土砂や地崩れに−…!」
注意を、と言おうとした、正にその時。
ごごご、と大地が身震いをした様な揺れ。
よろめいていると、次いで山の斜面を一気に泥水が駆け降りて来た。
『うわぁぁあああああ!!!!!』
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