企廓書庫
□虎は児といえど爪牙を有する
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「左近…」
己の変貌してしまった手を見詰める。
こんな小さな手では刀など握れまい、
未熟な身体では彼の方の盾にはなれまい、
では、こんな己など要らない。
「別に戻れなくても良いではないか」
小さな頭を撫でてやる。
左近の心中を察した上で、微笑みを湛える様は菩薩か観音かという程柔和で優しい。
次いで三成自身、『佐吉』と呼ばれていた頃に、気落ちしたり、涙が出そうになった時に太閤夫人にそうしてもらったように左近を抱きしめてやった。
「殿…」
常であれば回らぬ腕が易々と男−今は少年だが−の体に回される。
後頭を撫で、背中を軽く叩く。
「お前の世話を焼くのも悪くは無い。そう思った」
「……」
−嗚呼−
己は身体だけで無く心まで幼くなってしまったのか。
目頭がじわりと熱くなり、ぎゅう、と彼の方の羽織りを握り締めてしまった。
「それに…」
纏わる空気が柔らかく震える。
伺うとふふ、と軽やかに三成が笑っていた。
「この姿では悪さが出来まい。俺にとっては有利な事だ」
この時三成は勘違いをしていた。
児といえど虎は虎。
寧ろ若い獣の爪牙の方が鋭く、血肉を切り裂く事を。
「うっ…わ!…ん!」
背中と後頭部に痛みが走る。
痛みに気を取られた刹那、幼い獣は隙を逃さず獲物となる三成の唇を襲った。
「んむ…う、う!」
突然の事に息を溜めれずに、直ぐに薄い唇は息継ぎをするべく開かれる。
好機を逃さず左近は舌を割り入れる。ちゅるちゅると普段より幾分小さく薄い舌が蠢く様に不覚にもどくりと心臓が高鳴った。
ぼやける視界と靄のかかり始めた思考で見た少年は、懸命に己を悦くさせようとする一途な瞳をしていて三成の鼓動を更に早める。
「んんっ…んむ…!!」
このまま流されるのを良しと考えなかった三成は、非力そうに見えて落馬しかかった成人男子(鎧付き)を片手で持ち上げるという並外れた芸当を披露した腕力を発揮した。
元は鬼と恐れられた男も少年となっては勝てず、肩を掴まれ引き剥がされる。
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