企廓書庫

□虎は児といえど爪牙を有する
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閨の襖の前に立つ。
一応入室を告げてみる。


「左近、俺だ。入るぞ」


「と、殿!?駄目です!」


ぱん、とこれまた良い音を立てて襖を開く。
今の三成にはさっさと原因を突き止め、気持ちをすっきりとさせてもう一度寝たい。それしか無かった。







「左近…」


半分夢の国に旅立っていた三成の意識が一気に覚醒する。

そこには


布団の上に燻し銀の長い髪の十三、四の少年が一人ぽつんと座っていた。


「殿…」


三成を見上げてくる瞳は濃い茶で猫目石のよう。
左近にそっくりだ。
がくん、と三成は腰から力が抜けその場に座り込んだ。

少年は所作まで似ていて、慌てて手を差し出して来た。
三成は少年の腕を掴みどうしてどうしてと反芻する。



「殿!?大丈夫ですか?」


「あ、ああ。大丈夫だ。」

我に返り、じっ、と少年の顔を見詰める。
どうしてこんなにそっくりなのか。
モミアゲやら細かい所はやはり年相応の幼いものだが、全体的に見ればそっくりそのまま左近を幼い日にかえしてやったかのようだ。


少年が心配そうな顔をしている。


「大丈夫だ…生まれてきたお前に罪は無い…」


「は?」


「左近め…何処でこんな大きい子供を作っていたのだ…くそぅ!呪ってやる!平馬に習って呪ってやる!!」


「あの…殿?」


酷く優しい声音から一転、低く、怒気を含んだ声で世にも恐ろしい言葉を吐いていた。
表情も秀麗ではあるがこめかみに青筋が立っている。

完全に勘違いしている。
そしてこの勘違いを解かないと己は確実に悲惨極まりない事になる。


少年もとい、何の因果か若返ってしまった島左近本人はそう悟った。


「殿、驚かないで聞いて下さい。」


「お前を見た瞬間心の臓が飛び出して勝手に走り回る位驚いたから今更並の事では驚かん。何だ」


「俺が…左近なんです。島左近勝猛」


波打ったかのようにしんと静まり返る部屋、
少年は恐る恐る主の顔を伺ってみた。





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