企廓書庫

□虎は児といえど爪牙を有する
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まだ仄暗い時分に左近は目を覚ます。

己の身仕度を整え、寝起きの大変悪い主を不機嫌にさせない様に起こすには、これ位早く起きないとならない。




起きてぼんやり瞳を巡らせ、ふと違和感を覚えた。

平素より幾分天井が高い気がする。

いつもは大柄な体格故に布団の際ぎりぎりの足先が、今日は幾ら爪先を伸ばしても畳に触れる事が無い。


おかしいな。

いや、昨日は執務で遅くなったから城で部屋を宛われ、泊まったのだ。
己の屋敷と思っていたから天井も高く感じたのだ。
布団だって質素を旨とする城とはいえ、やはり質も大きさも違う。


そう自分に言い聞かせるともそもそと起き上がる。
寝乱れて開けた着物の合わせに手を突っ込み、脇腹を掻く。
否定はしているが、かなり中年風情が出ている寝起きだ。


「さて、と……!?」


はっ、と目を見開く。
喉を震わせて出た声は聞き覚えのないものだ。

喉を押さえ二、三度咳をすると改めて発声してみる。


「あー…」


結果は変わらず、高い、婦女子とはまた違う高い声にまさかと、有り得ないと思いつつも鏡を引き寄せた。


「うわぁぁああああ!!」












寝起きの悪さに定評のある三成もこの、叫びだか咆哮だか分からない声に起き出して原因を探す。
眉間にはくっきりと皺が入っていた。


根源は直ぐに分かった。
ある一室に人だかりが出来ている。
近寄ると皆一様に部屋の前でうろうろおろおろしているばかりだ。


「おい」


「み、三成様!!」


いつの間にいたのか己らの主に皆平伏する。
三成はおいと近くにいた下男に声をかけ事の次第を聞き出した。


「ここは昨夜左近に宛った部屋だな。左近は何処だ?」


「それが…部屋に入るなと固く申されまして…お加減が悪いのかお尋ねしましたがそれ以後音沙汰無く……」


「………」


下男の話しを聞いていた筈なのに三成は障子を小気味よい音を立て開けるとずかずかと踏み入る。

他の者は中には入らずびくびくと三成を見送った。




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