その他

□遺した言の葉、伝える心
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「夕焔!血火弾を!!春永援護に回れ!!」


我に帰ると醜悪な鬼が三匹、前方に立ち塞がっていた。

−いけない−


ごぅん、と鐘の音のような、重い扉が開くような音と共に姉の足元に法印が浮かび上がる。

己も援護をすべく矢を背中の空穂から取り出すが、落としてしまい再び背後に手を回す。
実戦経験がまだ浅く、己は今だに鬼と対すると手足が震える。

まるで心の臓をえぐり出されて耳元に当てられているかのように鼓動が大きく鳴り響く。

−いけない、落ち着け、落ち着け−…!−


「春、落ち着いて。慌てない」

声をかけられて、返事をしたがもしかしたら声が震えていたかも知れない。

姉の額の呪珠が強く光るとそれに呼応して天から紅蓮の火球が鬼に降り注いだ。


この瞬間いつも思う。
獣の叫びにも似て、人々の悲鳴とも近い鬼の断末魔。

この瞬間、
確かに人だと自分は名乗る自信が失くなる。


兄が駆け出す。
しぶとく息のある鬼に、とどめとばかりに額から顎にかけて刀で貫いた。

思えばあれは兄なりの鬼に対する情けだったのかも知れない。


ただ兄の緋色の髪がその時ばかりは鬼の鬣(たてがみ)よりも残酷な色に見えた。









「春永っ!!!」


兄の目が見開かれている
姉が何か叫んでいる。








「春永!!前っっ!!」


一拍遅れて姉の玲瓏な声が鼓膜を震わせた。


己に流れる鬼殺しの血か。
殆ど本能で弓を再び構えると、弦を引き絞り、姉の法力を逃れた鬼に放った。


「春永!!息の根を止めろ!!」


兄の声にぎりりとまた弦を絞る。
矢を放つ、寸前
鬼が女の姿をしているのに気付いた。








もしも私が鬼に変ずるようなら迷わず斬ってね









顔はうろ覚えだが春風のように穏やかな女(ひと)だったのを覚えている。

平素怒った顔など見た事が無く、よく春先にまだ咲かぬかまだ咲かぬかと庭の白梅を見ながら笑い合った。





鬼になるようなら迷わず斬ってね



これは貴女ですか?





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