その他

□小噺
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【片言隻語】



金銀珊瑚、瑠璃玻璃おまけに玉の華。

眼前には置かれた宝の山。

常人であれば目を回すか、垂涎もののまばゆいばかりのそれらに喜色を見せる所か、さも取るに足らない卑小なものを見るようにその人は柳眉一つ動かさず財宝の山を眺めている。


「モトナリ!オタカラ!オタカラ!」


突如、協息で翼を畳んでいた風鳥の眷属のような色鮮やかな鳥がけたたましい声と羽音を立てた。

それにも“モトナリ”と呼ばれた『美丈夫』と言うよりは『佳人』と呼ぶが相応しい冴えた月影を想わせる人物は、動揺する事なく鳥の頭を軽く掻いてやった。


鳥がそれにうっとりと目を細めると、ようやく佳人ははぁ、と何とも取れない溜息を吐いた。


「貴様は馬鹿か、長曾我部元親。いや、馬鹿以下か」

「はぁ!?何でだよ!」


馬鹿以下の称号を戴いた、隻眼、雪銀の髪の男は今迄の自慢げな顔を一変させ佳人に吠え立てた。


「航海で手にした宝を我の所に持って来ては置いてゆく…我は貴様の頭以上に貴様の駒共が不憫でならぬ」

「毛利さんよぉ、それは俺に喧嘩売ってんのかい?」

言うや、目を細める。
それは決して花が綻ぶような笑みではなく、例えるなら己が棘が深々と獲物に刺さる様を愉しむ妖花の微笑みだ。

「玩具で身上を潰している赤貧の鬼に買えるのか?」


睨み合う事しばし、先に折れたのは明らかに腕っ節が立ちそうな隻眼の方であった。


「そーいう事言うなよ。俺は…」

「“お前を喜ばせる為に”…か?狩った獲物を尾を振りながら持ってくる…まるで狗よな」

「…っせぇ。お前が嬉しく無ぇならもう持ってこねぇよ」

怒っていたと思ったら次は口先を尖らせ拗ねてみせる、まるで童だと元就は思った。

「こんな物で我を喜ばせようとはな」

呆れた声音を出せば大人しくしていた鳥がきょろりと目をしばたかせ、大声で喚き始めた。

「モトナリ、アイシテル!」

音を真似るだけの鳥にはこれが何を意味するのか分からないのであろう、飼い主が真っ赤になっている。

「ほぅ…鳥の方が我の機嫌の取り方を知っているではないか」

「は?」

「やはり貴様は馬鹿以下だ」






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