その他
□小噺
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【Coccineus】
たおやかというには逞しい、筋張ったというには美しい指が己の左の視界を開く。
ぱさりと衣に比べてやや重い音をたて、革布が畳に伏した。
「相も変わらず美しい事よ…」
他の者ならば獣が傷口に触れようとした者に牙を向くが如く、伸ばした手を叩き落としていただろう。
知ってか知らずか、彼は頬に手を這わせ、平素無い恍惚にも似た光りをその凍てる眼に宿している。
「くすぐってぇよ。元就」
頬から瞼へゆるゆると縁を辿る指先が冷たくこそばゆかった。
僅かに顔を振れば頬に宛われた手に一層力を込められる。
そして鼻が触れ合う程に顔が近付く。
よく見れば頬が上気している。情事の時の表情によく似ていた。
「けれども…あの緋には敵わぬ。そなたは知っておるか?」
艶やかで、妖しい笑みに背筋が毛羽立つ。
しかし笑みは温度を感じさせない、凍った湖面を思い出させる。
『この眼…我を求めて喰らう時、まるで血を啜ったような緋色となる…ふふ、あれに敵う赤などあるまいよ。嗚呼、貴様の物であるなど口惜しいこと……』
彼にしては珍しく饒舌であった。
一瞬草の者が変じているのではないかと思った程だ。
「ふふふ…昂ぶったか、緋が刺してきたぞ?」
緋が見たい緋が見たいと言うのなら見せてやろうではないか。
頬から手を引き剥がす。
握ってみると更に小さな手だと思った。
「何をする…野蛮な鬼よ」
ぐぐ、と蜂腰とはいかないまでも同じ性とは思えない腰を抱き、押し倒す。
言いながらも目を目は三日月のように細まり、艶めいた光りをちらちらと放っている。
「見せてやるよ、鬼の秘宝を…」
「その見返りが我の体か…?半端なものを晒してみよ。鬼の首、噛み切ってくれる」
「はっ…!ぞっとしねぇなぁ…」
早くも隻眼は鮮やかな赤に染まり始めていた。
◎ナリ様誘い受でございます…(汗)
【Coccineus】
=緋紅色の意
我が家のチカ左目設定
→平素は釣鐘草色(淡い青紫)で、興奮したり気が昂ぶると緋色に変わります(王/蟲?)
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