その他

□小噺
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【細雪】



はらはらと、

乙女が流す涙より儚げに、憐れに玉屑が鳥無き島に舞い降りる。

淡雪は地に積もる事も無く地に、木々の梢に、己の肩に降り立っては何も残さず消えてゆく。

憐れな憐れな細雪。

「嫌いか?」

そう問うた、脇で天を仰いで一瞥もくれぬ彼に元親はどきりとした。

会話が無く二人で、正確には彼は淡墨色に染まった天を、己はその妙美とも呼べる横顔を盗み見ていた時にぼつりと。ぼた雪のように問いは投げられた。

何の事だと応えに窮しているとゆるゆると三日月が満ちるようにこちらに面を向けた。

そしてまた元親はどきりとする事になる。

「我は今日のような細雪…嫌いではない」


その面は厳寒の風に晒されながらも僅かに綻ぶ此花を想わせる高雅な微笑みであった。

内心雪の事かと思いながらも稀なる彼の微笑みに阿呆の様に魅入ってしまう。

彼はまた、いや、今度は明らかに嘲笑を含み口角を上げる。


「降りては地に残らず、心にも残らず降った事さえ忘れさせる憐れな雪よ。」


ふふ、と小さく吐息にも取れる笑い声は酷く元親の心を疼かせた。


「俺は…好きじゃねぇ。」

「…長曾我部…」


己は今酷く情けない顔をしてるに違いない。
すぐに握り締めた拳に冷たい細やかな指がそぅ、と重なる。

まるで今舞い降る玉屑のようだ。

似ていると思ってしまった。


儚げに頼りなさげに降っては刹那に消え、草花を焼くことも無ければ寒さを残す事もない優しい雪。


己より小さな彼が顔を覗き込む。
子をあやす母のような面差しだ。


「雪…の話しよ。長曾我部」

「分かってるさ」


ひらり、

その時彼の瞼を縁取る豊かな睫毛に淡雪が降りる。

いつか話しに聞いたように雪は六つの花弁を持つ花の形をしていて、美しい筈なのに何故か目頭が痺れた。




細雪ははらはらと、
咲いては散り、咲いては散りをただ繰り返す








◎分かりきっていますが『彼』とはナリ様の事です(名前だせよ)
アニキがヘタレだ(コラ)


【細雪】ささめゆき
:細かに降る雪、まばらに降る雪
【此花】
:梅の別称。

07.1/14
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