奉献之文

□拈華の指
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−追われる恋は好きじゃない−



何てお前が言うから。少し距離を置いてみたら−






この始末






質素を良しとする佐和山城に僅かに設けられた庭園で、



数人の、花のような色とりどりの着物を着付けた侍女達と



花達に囲まれ軽やかに談笑する一人の男、





戦場では雨のような矢、波濤のような槍、刀から主、石田三成を護る強固な盾−…




島 左近





その様子を眉間に一本皺を入れて、回廊から見詰めて−他から見たら睨みつけているように見える−いるのは左近の、佐和山城の主、石田三成その人である。




−何なのだ!−


「先日の戦でも素晴らしいご活躍でしたとか」



−お前が言うから−


「武勇に優れ、尚且つ知略に富まれている何て」


−追われる恋は好きではないと−




どっ、と笑い声が溢れる。きっと左近が冗談でも飛ばしたのだろう



−気に入らん−




苛々と、理由は解らないが、今ここから怒鳴り散らしてやりたいという衝動に駆られる





と、同時に





どうしようも無く心苦しく、悲しい−幼い頃、迷子になった時の感じと似ている−この気分は何だ。




こんな近くにいるのに遠い、遠く感じる。





「!?」


高らかな、鈴を転がしたような声が、一層増す。


一人の侍女が囃し立てられ、無理矢理左近の脇に押し出されている所だった。


無理矢理であったが顔は赤らみ、伏せた顔は笑んでいた


−それより



−何だ、その顔−





侍女はともかく、左近の、あの顔は





満面とまでは行かないが、優しそうな、愛しそうな微笑みは






「!殿!!」


びくりと体が強張る、近付くな、近付くな…

「どうしたんです?そんな所に突っ立って」

花を掻き分け、近付いてくる−



刹那、




囃し立てられていた女の




あの顔−
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