駄文
□篠突く雨、皐月闇
1ページ/4ページ
−昔−
幼い頃−
急に『死』というものを意識した、
篠突く雨が降る夜−
年の割には達観していると思ったのに、
螺旋を廻るよう、思考はぐるぐると、答えに行き着く事は無く、
怖くて、心細くて
泣いてしまった
夜闇がいつもより深くて暗いものだと思った。
でも、自分は昔から素直でなく、この時も布団を頭まで被って、声を殺して泣いていた−
なのに−
佐吉、と優しい声がした
幼い自分には何故ばれたのかが気になっていた−
おいで、と井炉裏のある部屋に呼ばれた。
そろそろと布団から出ていった。明かりが、光りが無性に恋しかったから
行ってみると井炉裏の側でにこりと微笑む我が主
さぁ、と暖かくて柔らかい手に押されて、井炉裏端に行けば、人懐っこい笑顔が迎えてくれて、
質素倹約を家訓とするこの家で、夜中まで井炉裏に火をいれておく訳が無い、自分の為に焚いてくれたのだと分かり、
小さく
ごめんなさい、と呟くと
御免と、
怖い思いをさせて、もっと早く気付いてやれなくて御免と
暖かな手で頭を撫でてくれて、
思わず泣きじゃくってしまった−
背中を摩りながら優しい主は、井炉裏の火よりも暖かな声で
−きっと−
また、こんな時が来たらお前には
夜闇からお前を守って、包んでくれる人が居るから
泣かなくても良いよ。
と言ってくれた。
言葉はじわりと胸に染み、嘘ではないと思った−
だって人はこんな顔で嘘を吐く事は出来ない
−昔の話し−