駄文
□はちす葉の露珠
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彼の人は
この世の汚れに染まらずに−…
否
染まれずにいる−…
−−−−−
最後に見た景色は
瓶覗色の空と、蒼白な顔で駆け寄る
左近
次に見たのは見慣れた天井に、見慣れた部屋
「俺は…」
「お気づきになられましたか、殿」
聞き覚えのある声−
「左近…?」
「あれ程独りで歩き回られてはなりませんと言ったでしょう」
そうだ−
領内の小さな一揆、
直ぐに鎮圧されたが、その後の視察に行き−
切られーいや、刺されたのだ
思い出すと脇腹の傷口が疼く。思わず唸るような声を上げてしまった−
「痛みますか?白湯をお持ちしましょうか?何か食べられますか?」
ふる、と首を降る。
拒否の返事に左近の眉根が寄った。
「得物は錆びた小刀でした。もしかしたら熱がでるかもしれません」
「俺は…何日寝ていた?」
「一日半。」
そうか、と答えた声はまだ意識が夢現の狭間を行き来しているようで、掠れて抑揚を持っていなかった。
「相手は…」
「切り捨てました」
普段の左近には無い、冷たく、突き放した言い方に何故か泣きそうになる
三成を刺したのは子供だった。
年の頃は十か、それより上か。
泣きながら、父の、母の仇と言って切り掛かって来た。
三成はそれを避けれなかった。
避けなかった。
知将とはいえ、戦場では己が身一つ守る事位出来ねばならない。子供の攻撃を避ける事は、造作も無いはずだった
だが、体が硬直し、動く所か声をだす事もままならない−
段々と記憶が鮮明になってくる−…
刺されて、膝が萎えて体が崩れ落ちた。天を見上げて涙が零れぬようにし、涙を堪え切れた。そう思って視線を戻すと、
左近が駆け寄って来る。顔が阿修羅のようだ。逃げる子供の背後から一閃、巨大な刀を振り下ろした。