企廓書庫
□塞ぐ恋情、切実なる愛情
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「ふふ、まるで島殿を恋慕っているようだな」
軽やかに笑って言う吉継の言葉に、内心で三成は凍りついた。
そうしてどこかで諦めにも似た音で、やはりそうか。とも思った。
筒井の右近左近と名高い島左近が在野の将となり、両手に余る程の大名が我が城へと我が傘下へと足しげく左近の庵を訪ねた。
だが、左近は誰の、どんなにきらびやかな誘いにも乗らなかった。
彼を迎えたのは、石田三成という名前の知れ出した若い豊臣家の知将だった。
暫くは数多の虫が寄り集まってだす不快な音のような陰口が止まなかった。
どのような口車でかの島左近を手中に収めたのか。どうせ狡いやり口だろうさ。あのような青瓢箪の元では宝の持ち腐れだ。
三成は憮然としながらも、内心は誰よりもその事実を信じられないでいた。
三成は左近が欲しかった。
どうしても欲しかったから、今自分が出せるだけの禄を出すと言い、不満であれば己の屋敷を差し出すから、そこに居候させてくれと言い、
お前が家臣という地位に満足しないと言うのなら、父か伯父のように自分に接してくれても構わないと頭を下げた。
自分の体裁などどうでも良い。とにかく傍らにいて欲しいと懇願した。
それだけだ。
青鹿毛に乗って左近が城へとやって来た時の事は忘れられない。
そのゆったりとした足取りが、大きな四肢で音も無く歩む虎のようだと呆として見ていた。
それから三成は、更に左近に夢中になった。
物に限らず三成は好き嫌いが激しい。だが、気に入れば、とことん愛でた。
左近もその数少ないものだ。
武勇にのみ優れたものはこの英雄割拠する時代にいくらでもいる。
勿論、武で三成は左近に敵わない。だが、左近は智に置いても三成を凌いでいた。
左近は三成のお気に入りの一つになっていた。
だからこそ、三成は左近が傍らにいれば嬉しく、向かい合って問答をすれば胸が高鳴るのだと半ば思い込むように思っていた。
優越感なのだ。
誰の手も触れるのを許さなかった猛獣が自分の手だけは受け入れた。そんな優越感。
だが、
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