其ノ弐
□異世恋歌
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獄炎にて地は焦土と化した。
灼熱の炎に焼かれた大地はまだ熱を残している筈なのに、生ける者の存在しないその場所は、いっそ肌を粟立たせる寒ささえ感じさせる。
空を飛ぶ鳥さえもいない光景の中、唯一人。累々と転がり死体の中に男は膝をついていた。
遠呂智と言う天の罪人が作り出した怪力乱神が跋扈する世に放り出され、倭の国の英雄達と時に轡を並べ、時に相対し幾度と無く創造主の破壊を食い止めてきた。
もういっそこの名も無き世がまことであって、かつての世が幻であった気さえするようになったある日。
破滅は鎌首をもたげて襲い掛かって来た。
龍にも似た破滅の権化、妖蛇はあらゆる者を燃やし、あらゆる英傑を黄泉へと突き落とした。
そんな中、馬超は生き残った。
しかし生き残ったが故に死よりも苦しく惨いものを見ていた。
転がるよく見知った兵の中に彼らもいた。
尤も信頼出来る、父を失った後は父のように慕っていた臣、そして、従兄弟。
悲しみと怒りと後悔と。
様々な感情が馬超の中で逆巻き、ぶつかり、うねりを上げた。
何とも言えない感情は、奔流となると馬超の喉を裂いて吹き出した。
「ぉぉおおおおお…!!」
獣そのものの声はあまりに悲しく虚空に響く。
何度も何度も叫び、とうとう口から血が滴るようになっても、馬超は叫ぶのを止めなかった。
「ホウ徳殿ぉ!丁度良い所にいてくれたよ〜」
「どうされた、馬岱殿」
こうなるともう何が本当で何が嘘かは分からない。
死した筈のホウ徳、馬岱が生きている。
否、真実は時渡りの力を持つ女仙、かぐやの力を借りて、馬超らが過去に戻り、彼ら二人を助け、星の数程の“もしも"の一つ。彼らの生きる未来を捕らえたのだ。
「幸村殿がどぉしても俺と鍛練したいって。絶対若やホウ徳殿の方が相手にとって不足はないよねぇ?」
言って、やや離れた場所にいた馬超に視線を移す。
「…」
「馬超殿…?」
「?若ー?」
いつもは溌剌と返ってくる返事が、無い。
それ所か馬岱が目の前で手を振ってみせて、始めて馬超はハッと我に帰った。
「あ、ああ…何だったろうか?」
馬超の的を射ない返事にホウ徳と馬岱は顔を見合わせる。
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