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□バレンタインデーっつーかブラックデー
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物陰に隠れた依頼人達に、がんばって、と送り出された神楽は、紙袋を片手にのろのろと、沖田の座るベンチへと向かう。
がんばれってなんだヨ、ならオマエが頑張れと、声に出さずに呟く。
隊服姿のところを見ると、きっと仕事中なのだろうが、沖田が公園に居ることを知っていた依頼人の様子からして、
よくこの公園で、ひとやすみという名のサボリを決め込んでいるのだろう。
目の前に立つ神楽の気配に、沖田は頭の後ろで腕を組む姿勢そのまま、視線だけを向けた。
「受け取れアル」
紙袋を提げた腕を、下から少々乱暴に持ち上げ、沖田の目の前にぶら下げる。
「何たくらんでやがる」
目の前に揺れる紙袋には目もくれず、神楽を見つめたまま、嫌悪感もあからさまに表情をしかめる沖田に
「勘違いすんなヨ、仕事ネ」
と、神楽も鼻にしわを寄せた。
「性悪のオマエにも、ファンになってくれる女の子がいるアル。感謝しろヨ」
「あぁそーですかィ」
二月十四日、街を歩けば今日が何の日であるかなど、そこかしこで宣伝している。
物憂い顔で手を伸ばし、紙袋を受け取る沖田に
「あーそーって、それだけアルか」
「はぁ?」
おそらく物陰から、沖田の一挙手一投足に注目して一喜一憂しているであろう依頼人を思って、神楽がつっけんどんに言う。
「こんなちっぽけな油分と高カロリーの塊にもピュアな女ゴコロが詰まってんだヨ!もっと何かリアクションしてもバチは当たらないアル」
「つーかオメーの発言の方がどーなのそれ」
「ブルーデーとかあるだろ!」
「ブルーデー?俺にはねぇよ、ホワイトデーだろ」
「それアル!」
何を言ってんだコイツはと、呆れ顔で座る沖田に、神楽は腰に手をあて仁王立ちになり
「返事するにもお礼するにも、チョコの送り主がどんな女か気にならないアルか」
「別に」
「今なら教えてやってもイイぞ!サービスしてやってもイイぞ!教えてもらえヨ!」
と、高慢な態度をしてみせたが
「そりゃお前が教えたいだけじゃねェか。俺ァ知りたくもなんともねーよ」
沖田は涼しい顔だ。
「知ってソンはないアル」
「どーでもいいって言ってんだ」
そういうと、沖田は立ち上がった。
首をかしげて黙って神楽を見下ろす。
くちさえ開かないでいれば、純真そうな印象の顔つきなのだが…
「出さねえ手紙に宛先はいらねーだろ、する気もねェ返事にゃァ、相手も必要ねぇって事」
言い置いて紙袋を片手に、ぶらぶらと歩きだした沖田に
「そのチョコ返せヨ!」
カチンときた神楽が、呼びとめる。
「何でィ今度は」
沖田は立ち止ったが、振り向きはしなかった。やれやれと頭を振る様子で、見なくてもどんな表情をしているか察しはつく。
それにも神楽は腹が立つ。
「お前みたいなヤツに、チョコ貰う資格はないアル!」
「仕事なんじゃなかったのかよ」
「そうだけど!カンケーないネ、渡したくなくなったアル。いいから返せヨ!」
手のひらを上向けて、沖田に差し出す。
沖田は怒り顔の神楽を振り返り、紙袋からリボンの掛かった包みを取り出すと、手早くリボンを解いて包装紙からチョコをつまみ上げ
「一度貰ったもんは、俺のもんでィ」
あっけにとられる神楽に見せびらかすように、ぽんとくちに放り込んだ。
「ごちそーさん」
踵を返して、去っていく沖田をふくれっ面で見送る神楽の背後から、きゃぁっと嬉しそうな黄色い歓声があがり
ますます神楽は顔をしかめた。
*終*