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□夜雨対牀
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涙眼で殴り続ける神楽を想像して



「ヒデェなオイ」


と、銀時がつぶやく。







「やっとゾンビ倒して、気がついてみたら…」




暗い闇の中、息を切らして倒したゾンビを見下ろす



汗をかいた頬に髪がへばりつく

夢中で殴り続けた手がジンジン痺れている



折り重なる二体の死骸が身につけている見覚えのある着物


目が離せない

ゾンビの顔が今は鮮明に視える なぜ

目を見開く自分の表情に顔の皮が引き攣る



確かめるために伸ばした手が震える なぜ



「…――――っぎっ…銀ちゃ…」


触れた銀髪のやわらかさに声までも震える


なぜ、こんなことに



強い喪失感にへたりこんだ神楽が 絶叫した












銀ちゃあぁああぁんッ

新八ィイィィイィッ
























「………な」

なんつー夢見てんのと、くちもとを引きつらした銀時が冷や汗を浮かべる。


「アレ?神楽ちゃん?」

と、猫なで声で


「え?なんか俺たちに不満でもあるのかな?」


苦笑いの顔を振り向けた。


ずびっ


鼻をすする音に、横目でちらりと神楽を見た銀時は、ゆっくりと元の姿勢に戻る。



銀時の背中で、仰向けになった神楽は掛け布団を両手で握りしめて、天井を睨みつけていた。




「バカたれ、寝る前に見た映画そのまんまじゃねーか、すぐ影響受けんだから。んなモン、ただの夢だ、夢」


興味無さそうな銀時の声に

ずるっ

と、鼻をすする音が答える。




まだ降りやまない雨音が、サァサァと聞こえてきた。






「銀ちゃん」


「あ?」


少しの沈黙を破って銀時を呼ぶ声に、背中を向けたまま答える。




「食べられてあげなくってごめんヨ」




神楽の涙声に銀時は真面目な声で


「なぁに、気にすんな」

やさしく言う。


「同じ状況だったら、俺も同じようにしただろう」





「ヒデェアルな」


神楽がちょっと、笑った気がした。




やれやれ、このクソガキと銀時は重い瞼を閉じかけて


「オラもう大丈夫だろ、あっち行って寝ちまえよ」




神楽の返事を待つ。



「オイ、アレ?」










微かな寝息に、目を開く。




「ウソォォォもう寝たの!?テメーはのび太かコノヤロー」


ガバッっと勢いよく起き上がり、神楽を見る。




暗がりに慣れた銀時の目に、ヨダレを垂らした穏やかな神楽の寝顔に涙の跡が残る。
横目で見おろす銀時は、眉をあげてため息をついた。


―――食べられてあげなくってごめんヨ


「なんだそりゃ。変な気の使い方しやがって」


銀時はガリガリと頭をかきながら、立ち上がり、居間へ続く襖を開く。














「おはよーございまーす」


万事屋に出勤してきた新八は、あいさつしながら居間の戸を開けた。


「あれ?」


ソファで毛布を被って寝ている塊に

「銀さん、いいかげん寒くなってきたんですから、こんな所で寝たら風邪ひきますよ」


そう言いながら、反対側のソファに腰を下ろす。


「もうそんな時間?」


むくりと起き上がった銀時は、格子窓から差し込む朝日に顔をしかめる。


「俺だってココで寝たくて寝てんじゃないからね」


そう言うと、背中を伸ばして違和感を確かめる。


「イテテ…ちょっ湿布貼ってくんない?」

「あ、ハイ。どしたんですか?」

「神楽がよー…」


諸肌になりながら

「怖い夢見たーなんつって寝込みを襲ってきやがってよー」


と、不機嫌そうに話す銀時に新八は苦笑いを向けて、箪笥の救急箱から取り出した湿布を剥き


「ハハハ、どの辺ですか?」

と、銀時の背中を指の腹で押していく。


「もちっと、脇腹の辺。そそ、その辺…だっは冷てっ!一気に貼ってよ」


湿布の冷たさにのけ反る。


「夢が怖いなんて、神楽ちゃんもまだまだ子供ですね。どんな夢見たのかな」

「何でも俺達をボコボコにする夢だったらしいよ」

「え…怖いってあの…僕らが恐怖するとかそういう感じなんですか?」


やっぱり顔を引きつらせる新八に


「本当、ある意味怖いよー。あの怪力娘、あやうく定春2号にされちまうところだよ」


そう話す銀時の言葉に、新八もいつか神楽から聞いたウサギの事を思い出した。


「朝起きたらカッチコッチなんてよ、一部分だけで充分だよ。全身なんて冗談じゃねーよ」


ハ…ハハとちからなく笑う銀時に


「それは…シャレになんないスね」

と、新八も頷く。


「とにかくメシにするから起こしてやって」

「ですね」


新八は和室の襖を開けると、銀時の布団で眠る神楽の枕元に手をついて

「起きて、神楽ちゃん、おはよ」

肩を揺り動かし、声をかける。ぼんやりと神楽が目覚める様子に

「いや、おはよってほど早くないな。おそようだな」

少し怒った顔をしてみせる。


「新八ィ」


神楽が呟いた。そしてガバーッっと勢いよく起き上がる。


「新八ぃぃ!生きてたアルかァァ!」

「えええ!ぐはぁあッいや待って今ッ今死にそうだよぉぉぉ」



神楽に飛びかかられて強(したた)かに後頭部を打ちつけた新八は、身体がぼきいっばきいっと悲鳴をあげるのを感じながら
銀さんの湿布の理由はこれかァァッと理解した。

新八の惨状には目もくれず、銀時は歯を磨いている。



雨はすっかりあがって良い天気だ。



*終*
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