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□鬼は外福は内
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よっこらしょ、と銀時が立ち上がったと同時に、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
「こんな時間に誰ですかね」
新八が玄関に向かい、銀時は台所に竹串を探しに行く。
「…銀さん、ちょっと」
静かに呼ぶ新八の声に、玄関を覗いた銀時。
「来ちゃったゾ」
そこには寒さと好意に頬を染めたさっちゃんが、照れ笑いを浮かべていた。
「何しに?」
銀時が素っ気なく聞いても、さっちゃんには想いを寄せる男の言葉は何だって嬉しいらしく
「豆まきだゾ。今年一年、銀さんと、銀さんの銀たまさんが健康で元気にいられるように、さっちゃんが願掛けにきたのでした〜」
銀さんの銀たまさんって…しかも元気って…
いつものさっちゃん節に、新八も呆れ顔になる。
「待っててね銀さん、すぐ準備するんだからゾ〜」
と、納豆を練り始めたさっちゃんに
「え?なに?なにで?」
確認するようにゆっくりと、銀時が聞いた。
「なにって、大豆じゃない。豆まきっていったらお祓いした大豆を使うのよ」
「や、大豆だけど納豆だね。醗酵した大豆だね」
「鬼は外、銀さんは内。内っていってもアレよ、私のう、ち。私の中に銀さんがッ!」
きゃー言っちゃった言っちゃった、と勝手に照れている。
「さぁ私の中にまくわよ!銀さんは内!ああぁん、私の中に入ってきたわァァ!これは何?何なの?」
「納豆だね」
「いやぁん、なんかネバネバしてるのがついちゃったぁ、糸ひいちゃったぁん、何これぇ!」
「納豆だね」
納豆をすすりながら悶えるさっちゃんには、銀時の冷たいツッコミは届いていないようだ。
「あ、そうだ。コレ使えんじゃね?」
銀時はおもむろに、手にした竹串を、さっちゃんの頭に突き刺した。
「んギャァァァァ!」
「よーし、臭いモン刺してM除けも完成したし今年は良い年になりそうだなオイ」
M除けのMは魔除けのMですか銀さん
銀時と新八が玄関に鍵をかけて居間に戻ると、神楽がソファにうつぶせになっていた。
「ちょやめてくんない?そういう空気」
「……」
そう話しかける銀時に、神楽からの返事はない。
「なんか俺が悪いことしちゃったみたいになってんじゃん」
「……」
やっぱり神楽は返事をしない。
なんとなく、気まずい空気。
「…上等だコラ!やってやろーじゃねーか豆まきをよォ!神楽お前チラ裏に鬼の顔描け!新八は入れモン持ってこいィィ!」
「ヤッター!」
満面の笑顔で、神楽が飛び起きる。
結局銀さんも神楽ちゃんには弱いなァ、と銀時の苦々しげな顔も、新八には微笑ましかった。
「ハイではこれから坂田家式節分を始めます」
新八、神楽を整列させて仰々しく銀時が言う。
「まずは鬼という名の的ですが、コイツです」
隣におすわりさせた亡者のもう一匹、定春の額に、神楽が描いた鬼…っぽい絵を、ペんッと貼り付ける。
「そして投げるのはコレ、ドッグフードのカリカリです。こいつを的に向かって投げる時、一番大事なのは掛け声だ。
ハイせーの、よそは〜よそ、うちは〜うち」
定春にエサを投げる銀時のセリフが聞き取れなかった新八は
「え?なんて?」
と、聞き返した。
「だから、他所は他所、家は家だよ」
「…おねだりされた母親かよ」
「うるせィ!坂田家式って言ってんだろ!テメーらも一緒に叫べコラ、そしてココロに刻みつけろ!ハイよそは〜よそ!うちは〜うち!」
「…よそは〜ヨソ、…うちは〜ウチ」
「もっと大声でェ!ハイィよそは〜よそォ!うちは〜うちィ!」
「よそは〜ヨソォ!うちは〜ウチィィ!」
「ワンッ」
なんか…とんでもないこと言わされてるんですけど…
それでも神楽は嬉しそうに、坂田家式豆まきをしている。ドッグフードを投げられている定春は、もっと嬉しそうである。
他所は他所、家は家…か
ま、楽しそうだから、いっか。と、新八も笑う。
「腹から声だせぇぇ!よそは〜よそ!うちは〜うち!!」
「よそは〜ヨソォ!うちは〜ウチィ!」
「よそはァよそォォうちはァうちィィィ!」
「ワンワンッ!」
大声を張り上げて、新八もドッグフードまきに、参加した。
*終*