私利私欲私情を脱いで制服を着ろ

□其の五
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買い物袋をかたわらに置き楚々(そそ)と正座をして、明るい声でそう礼を述べる妙に

「お妙さ―――ん」

と、近藤は破顔した。




「あの日、お店に来て頂いてたらしいのにお礼もできなかったので、今日よろしければ、お鍋で一杯でもいかがですか?」


愛しのお妙さんからの申し出に、尻こそばゆさに襟に手をやり、てへ、っと頬を緩める近藤。


「いやァ、お礼なんてそんなみずくさ」
「いえ、ただのお礼ですから」

「ごちそうになるなんてそん」
「いえ、ただのお礼ですから」

「そんなことして頂いち」
「いえ、ただのお礼ですから」


笑顔を絶やさず、近藤の言葉にかぶせるようたたみかける妙。
黙って成り行きを見守っていた新八も、姉上そんなに強調しなくても、と心の中で呟いた。


案の定、先程までの幸せそうな表情から一転、近藤はうつむき、その目に光はない。



「じゃ、さっそくコンロを持ってきますね」


腰をあげた妙は、台所に行きかけ、ふと近藤の足に目をとめる。


「ちょっ、何、その足っ!」


今夜は鍋か…それなら姉上の手料理でも、無事にすみそうだな。などと考えていた新八は、叫びに姉の顔を見て、視線の先にある“何か”を見ようと身を乗り出した。


「えっ、わっ、キモチワル!」


二人の視線が、自分の立てひざしているむき出しの脛に注がれているのに気がついた近藤は


「む?あァ、コレ?すね毛ありんこ。手持無沙汰だったんで、つい」


にかっと無邪気に笑った。







すね毛ありんこのつくりかた

 @手のひらで、すね毛をくるくる擦る

 Aできあがり






「できあがりじゃねェェだろォォ!」


そう説明しながら、さらにすね毛の蟻を作って、親指を立てニヤリと笑って見せた近藤の鼻に、妙が人差し指と中指をブスリと突き刺す。


「新ちゃん!アリの巣コロリ持ってきて!巣ごと全滅させてやるから!」


「二個ですね」


妙に鼻フックをかけられ、いでででででっと涙目の近藤に一瞥をくれて、新八は居間から出てゆく。




「ブルブルチューブ鼻の両穴に挿し込んでブルブルさせてやらぁァァァッ」

「うぎゃあぁぁぁぁァァァッ」





姉の怒鳴り声と近藤の叫び声を背に、新八は顔が緩むのをこらえて、呆れ顔をつくっていた。




*終*


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