誘われたら乗っておくのがおつきあい
□其の二
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あくる日の夕方、上司の土方と組んで検問をする沖田は、聞き覚えのある声に目を向けた。
「いやぁ〜、食った食った」
爪楊枝を口に、懐手の銀時の隣には、機嫌の良い笑顔を浮かべた神楽、それに続く新八。
パトカーに寄りかかり、煙草をくゆらせる土方と向かい合わせに立つ沖田の間を、万事屋三人が悠然と通り過ぎる。
それを見送った沖田と目が合い、ども、失礼しまーす、と新八が会釈した。
「旦那、ずいぶん景気良さそうですね」
「わかるー?ちょっとオイシイ仕事があってねー」
声をかけた沖田を振返り、にやりと笑ってみせて、行ってしまった銀時達を見送りながら
「焼き肉のにおい、させてましたぜィ。珍しいこともあるもんだ」
沖田は、すれちがった三人にしみついている、炭火で炙られた肉の香ばしい匂いを感じて、
無関心の土方に同意を求めた。
江戸の町の治安を守っている真選組にいれば、その巡回時に万事屋に出くわすこともよくある。
なにかしらの依頼を受けて働いてはいるのだろうけれど、はたから見てあまり儲かっている様子はないし、
実際に依頼をした事のある沖田からしてみても、万事屋の依頼料は大雑把で鷹揚だと思える。
夏の盛りの頃、拝み屋に扮した彼らをそれと知らず、真選組の屯所に呼んだことがあったが、その時も、
悪気は無かったが仕事も無かった、と生活に窮しているようだった。
そんな彼らが外食、しかも焼き肉を食べに出かけていたとは。
「いいなー、焼き肉、いいなー」
沖田は土方に向き直って
「この後、仕事帰りにどうです?」
「あ?」
「土方さんのオゴリで」
「行くわけねーだろ」
「どうです?」
「どうですじゃねーよ」
そんな真選組二人のやりとりを、背中越しに聞き耳をたてていた銀時。
「どうかな、新八君」
振り返って、沖田たちと自分たち、お互いの声が届かない距離になったのを確認した新八が、答える。
「いいなーって言ってますね」
「まったく、家でしこたま食わせてきたのに、あんなに食いやがって。財布がカラじゃねーか」
先ほどまでのにこやかな表情から一転、不満をあらわにした銀時に頭を小突かれても、神楽は笑顔のままだ。
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