近藤さんとお妙さん

□土方さんとお妙さん
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「あー、やっぱガラにもねーこたァするもんじゃねーな」


スナックすまいるの店先に覆面パトカーを横付けして、己自身もまるで覆面しているかのような包帯の隙間から、器用に煙草をふかし、土方は独りごちる。


近藤さんのためと言えば聞こえは良いが、あの女にしてみたら、迷惑以外のなにものでもなかったかもしれねぇ。


かもしれないが、詫びをしたいと呼びだしてきたのも、あの女だ。
しかも、わざわざ披露宴の日に被せてきた…のではないだろうか、そんな考えがよぎり、土方を後押しした。

呼び出しを受けずとも、この見合い騒動を無かったことにするには、妙に出張ってもらうのが一番効果的だろうとは思っていたのだ。

いざ店に来てみれば、包帯だらけの土方の他には連れがいないことを知って、ガッカリとした妙の様子に「こいつはもしや読みが当たった」と感じたものの、
ほのめかした近藤奪還に、あきらかなためらいがみられ、土方もだんだんと自分のしたことに気が滅入ってきた。



「お待たせしました」

「あぁ…アァ?」


声に顔を向けた土方は、妙のいでたちに眼を丸くする。


「お前、それ…」




なんで薙刀持ち歩いてんの?




咄嗟に言葉を飲み込んだ土方に、妙は小首をかしげ、にっこり微笑む。


「あらヤダ、知らないんですか副長さん。薙刀はホステスのマストアイテムなんですよ〜」




聞いたことねーけど




「お客様のボトルを開けてさしあげる時とか水割りかき混ぜる時とか
他にも着物の糸がちょっとほつれてるのを斬って差し上げたりとか金の切れ目にとどめを刺したり便利なんですぅ」


「へ…へぇぇ〜、なるほどな」



って見たことねぇよそんなホステス



土方は無粋なツッコミを必死に腹にしまいこんで、後部座席のドアを開く。

この女、愛想笑いはともかく、店で出迎えられた時よりは覇気があるというか、吹っ切れたようにもかんじられる。



なァんだ、結構ノリノリじゃねえか



包帯で顔が隠れてるのが幸い、ほくそ笑むのを見られずに済んだ。


「乗ってもらうには後ろの方が良い。エモノは助手席の方に通しておけば入るだろ」



運転席に乗り込み、エンジンをかける。

店から離れ、乗り込むところを見た者がいないところまで走ってから、助手席のサンバイザーについたフラットビームを表に向け、
窓をおろし、シガーソケットに回転灯を接続してから後部座席に

「ちっとうるせぇけど我慢してくれ」

返事を待たずに回転灯を鷲掴んで屋根に取り付け、一般的な乗用車ならカーオーディオがはめ込まれている場所にあるサイレンアンプのスイッチを入れる。



「大袈裟ですね」


普通に話す妙の声は、音にかき消されそうだ。
窓を閉めて慣れてしまえば、それほど音は気にならないはずだが、それでもやや声を張って


「近藤さんの人生がかかってんだ、大袈裟にして何が悪い」


返事をした土方は、この半月間、近藤が苦慮していた問題がやっと解決するだろう安堵からついうっかり口軽く、
後部座席には聞こえない程度の小声で

「まったく、もっとテメーの事考えやがれってんだよバカヤロー」

と、近藤に言ってやりたい文句が溢れた。




「まったく、ゴリラだからって気に入られてんじゃないわよバカ…」




かすかだが、サイレンに耳慣れている土方にはつぶやきが聞こえて、自分に相槌を求めているのかとバックミラーで確認し、ほォぅ、と驚く。
妙は、パトカーの内装が珍しいのかあらぬ方を眺めながらの、土方に向けてではなくひとりごとだったようである。



なるほどな、近藤さんが見ている笑顔ってのはコレか





*終*



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