近藤さんとお妙さん

□断念
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誰が言ったかは知らねーが、胸にぽっかりと穴があいたみたいだ、とは
まったく上手く表現したものだ。


つい、今し方まで言葉を交わし酒を飲み。


いつもなら、垣間見た彼女の微笑みひとつ、なげかけられた言葉ひとつ、ついうっかり機嫌をそこねて受ける頬の痛みでさえ
思い出し笑をしながら噛みしめてしまう自分に、我ながらほとほと呆れる、浮かれた帰り道。




今夜は違う。







見合いをすることになるかも、とあなたに告げるのに、俺がどんなに思案に暮れようがまったく意味のないことだった。





そらまぁ、さすがの俺でも、お見合いなんてしちゃイヤです!なーんて涙ウルウルで縋(すが)りつかれるたァ期待しちゃいなかったけど。

「アラ、まあ」

って、それだけ?

本当に、とか、どんな人と、とか、見合いの日取りはいつ、とか…
わずかでも興味があるような質問を待って息をのむ俺に、次のセリフはニッコリ笑顔で「おかわりされます?」だとは…





この見合い、断り難いとはいえ、せずに済むならそうしたい。

話がまとまるとは思えないが、受けるからには結婚の意思が前提のことである。見合いとはそうしたものだろう。





そうか…俺って奴は









「馬鹿だな」









これでも彼女を大切にしているつもりだったとは、なんて浅はかさだ。
決して軽々しくくちにしたわけではないが、結婚という言葉の重圧で、ずいぶんと困惑させたのだろうか。
拒絶の理由がそれですべてではないにしても、あまりに独りよがりだった。


今更気付いたところで、もう…











お妙さん。俺は



どーにもあなたをあきらめることができなくて


賭けにもならん賭けのつもりであなたの気持ちを確かめたくて






せめて眉をひそめてくれたなら



もう少しだけ、己の想いにしがみ付いていけると思ったんだ。







手前ェの気の持ちようで、こんなにも同じ景色の見えようが変わるとは知らなかったよ。



おかしなもんだ、今生の別れをしてきたわけでもねーのに。



家並みも街路樹も月も、なにもかもから隔たれ、それでいて空虚に溶ける感覚。

吹く風が身体の中まですり抜けて、からっぽになってしまったような気がする。





*
つづく
*

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