近藤さんとお妙さん
□強引さと自信は比例する
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今夜あたり、来ると思っていたのに!
給料日前で更に週の頭だったせいか、いまいち盛り上がりのないまま、スナックすまいるは閉店時間を迎えた。
そんな静かな店内の雰囲気がそうさせたのか…
妙はヘルプについた席で、「怖い話」を聞かされる羽目になった。
最初こそ、他所の惑星で体験した珍しい話を繰り広げていたおりょうの指名客は、好奇心まるだしの彼女にせがまれて、雰囲気たっぷり、不思議な出来事について語りだす。
「アンタみたいのがいてくれると、面白さ倍増すんのよ!」
怖いのはダメだ、苦手だと席を立とうとした妙の腕におりょうは自分の腕を絡ませて、さも嬉しそうにニンマリと笑い言い放ったのだった。
傍らで縮こまって両手で耳を塞ぐ妙に
「ちょっとぉ、宇宙船の外を走るお婆さんで、何がそんなに怖いのよ」
と、おりょうは可笑しそうに言うが、もうその「怖い話をしている」という空気そのものが怖いのだ。
「いやおりょうちゃん、この婆さんワープしてもついてくるき。ただもんじゃなか、まっこと恐ろしいぜよ」
肩をすくめて、ブルッと震える指名客に
「坂本さんの顔見てると、怖さがまったく伝わらないわ」
「本当の怖さはこれからじゃぁ。添い寝が必要なほどじゃき、続きはシャワーでも浴びてゆっくりくつろげるところに移動した後でっちゅーことで、どうじゃろウゴッ!」
おりょうは客がかけているサングラスの真ん中めがけて、チョップを食らわせた。
「いやだ〜坂本さんたら面白いんだからぁ〜あっはっは」
「あはっはっははは」
笑い合う二人を置いて席を立った妙は、控室に向かいチラリと時計を見る。
閉店まで、まだ一時間ちょっとある。
あの調子からして、おりょうの客が帰るまでにはしばらくかかるだろうし、かといって一人で夜道を歩く勇気も出ない。
もしかしたら…
ここ数日、店に顔も出してないし、もしかしたら、今夜あたり来るかもしれない。
そしたら、話しかけ続ければ、きっと家までくっついてくるに決まってる。
なんてチョッピリ期待してたのに!
肝心な時に限って、現れないんだから!
すまいるの扉を一人で開けて、帰り支度を整えた妙は、店前の大通りがあまりにひっそりとしているように感じ、イライラ半分と、もう半分は恐怖心を払うために
「もう!近藤さんったら!」
と、独り言にしては少し大きめの声で毒づいた。
「や、すんません」
店の扉の影から、男の声がして、妙は慌てて覗き込む。
ちょっと驚いた顔をした近藤が、首の後ろに手をやって、所在無げに立っていた。
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