近藤さんとお妙さん
□あなたを護りたい
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「見てましたよ」
顔から握りこぶしに目を移した妙が
「こっち」
と、今度は左手を指で示すので
「あっ、当たり!スゴイ!なんで?」
近藤はちょっと驚いた。
確かにお妙さんの視線はピンと張ったゴムを越えて、俺の眼を見つめているように感じていたのに。
「なんででもです。おかわり、どうぞ」
「え?音?」
「音じゃなくてもちゃんと見えますよ〜」
含み笑いの妙にすすめられた水割りに手を伸ばした時、テーブルにおりょうがやってきた。
「どォも〜、近藤さん飲んでる?」
近藤と軽いあいさつをかわしたおりょうに新たな指名を告げられて、妙は席を立つ。代わりにソファに腰掛けたおりょうが
「近藤さーん、今日はずいぶん早いおでましだったじゃない?なんか食べてきた?」
「まだ。おりょうちゃん、なにがオススメ?」
「ヤッタ!じゃあさ、カラアゲどう?」
メニューを開いて顔を隠すようにして、妙が席から遠ざかるのを見送り、声が届かなくなったのを確認すると
「ちょっとォ!良い雰囲気だったじゃん!」
ひそひそ声のボリュームを最大にしたような話し方で、ふざけてみせる。
「そ、そーかな」
「そうだよ!なんかすいまっせーん、こんな良いタイミングでお邪魔しちゃって」
それからスタッフを呼んで、ちゃっかり唐揚げと自分の飲み物を頼んだ。
「ごめんね、近藤さん」
「うん?何が」
おりょうの突然の謝罪に、酒を飲む手をとめて近藤が訊く。
「ドンペリ。かなーり使っちゃったでしょ」
「ははっ、なんでおりょうちゃんが謝るの」
「花子にさ、近藤さんに電話してみたらって言ったの、アタシなんだよね」
あんまりあの子が心配するもんだから、それじゃあ頼りにするなら近藤さんでしょって、だからゴメンネ
とは言いながらも、悪びれた様子もなく両手を合わせてニヤリと笑うおりょうに
「ぜーんぜん、気にすることないって、むしろありがとうだよ。久々の大暴れで気分も晴れちゃったからね〜!」
近藤もニヤリと笑いかえす。
花子さんから電話がくるまでは、お妙さんが悩んでたなんて知らずに、冷たくされてメチャクチャへこんでたからさ。
「おまたせいたしました」
「はい、近藤さん。あっついよ、ちゃんと揚げたてのヤツ持ってきてって頼んどいたから」
と、ピックではなく箸を手渡され、なんだかキャバクラというより居酒屋気分になる。
にやにやする近藤に「だってそのほうが美味いじゃん!」そう言って唐揚げをくちにほうり込むおりょうは、キャバ嬢というより親戚のオネエサンみたいだ。年下だろうけど。
「でさ、これ。約束のアレ」
おりょうは帯からそっと取り出した封筒を、近藤に差しだす。
「マジで!?いいの!?だって俺が連れてきたワケじゃないよ?」
「こないだ連れてきてくれたじゃない」
「いや、あれもとっつァんがノリノリで、どっちかっつーと俺が無理矢理連れてこられたんだけど」
「同じよ、やっぱスゴイわ夜の帝王の盛り上がり!楽しかった〜」
もぐもぐと唐揚げを頬張るおりょうから封筒を受けとり、広げた隙間から覗くように、さっそく中身をたしかめてみる。
「おまたせ」
すぐ近くで声がして、顔をあげた近藤の目の前に写真そのまま、にっこりと笑う妙がテーブルの二人を見下ろしていた。
「わ、お妙さん!おかえんなさい」
咄嗟に笑顔をとりつくろった近藤が、妙を見上げたまま手元は大慌てで封筒をしまい込み、飲み物でくちの中の唐揚げを急いで飲みこんだおりょうが
「っ遅かったじゃない、待ってたんだから」
そそくさと立ち上がり
「カラアゲ、熱々だから食べて。じゃーね近藤さん、ごゆっくりぃ〜」
挨拶もそこそこ、グラスを持って逃げるように退散してしまった。
おりょうちゃん、そりゃねーよ
逃げるわけにもいかず取り残されたような気分で、何を隠したのかと問い詰められることを覚悟した近藤だったが、妙はべつに気にする様子もなく
ソファに腰をおろすと箸をとりあげ
「いただきま〜す」
と、唐揚げをひとつくちに運んだ。ホッと肩の力を抜いて、近藤も箸を伸ばす。
ヨカッタ〜、見つかってなかったのかな
「あ、私、近藤さんに訊きたいことがあったんです」
ブバッ
近藤のくちに入れたばかりの唐揚げが勢いよく飛び出す。
キタ!!いっかい油断させておいてから確信に迫るとは!
近藤の心配をよそに、巾着の中から取りだし
「コレの使い方、教えて下さいな」
妙がテーブルに乗せたのは、
真選組の特別仕様防犯ブザー“あなたを護り隊”500円(税込)。
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