近藤さんとお妙さん

□酔っ払いオヤジほどタチが悪いものはない
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「たまにはお前ぇの酒の付きあいをしてやるってんだよ、なぁ近藤」

「どっちが付きあわされてると思ってんだよ、もおおおお!」



スナックすまいるの入口で、こぜりあいをしながら近藤と松平が現れてすぐ、気を利かせた黒服に急かされて妙と阿音が出迎えた。



「パパー!こないだはありがと〜!」


松平の腕にからみつき、しなだれかかる阿音の横で妙は、近藤に両手を差し出す。


「おじさんこそありがとうだよ、あん時ゃ久々に大暴れしちゃって若返った気分、つーか若返っちゃったからね〜!」

「よく言うぜ、まったくぅ」


腰の太刀を鞘ごと抜いて妙に手渡しながら、松平の背中に近藤が毒づく。


案内された席には、いちどの来店にもかかわらず上得意客となった松平を出迎えるべく、さらに女の子が二人、待っていた。
隣に贔屓の阿音を、ほかの二人も自分をかこむようにはべらせた松平が、どっかりとソファに腰をおろす。



「テメーはまだまだ無粋だな。夜遊びだっつーのに腰にそんなモンぶらさげて」

近藤の刀を刀掛けにおさめる妙を眺めながら

「夜遊びにゃぁコレ一本ぶらさげてくりゃジューブンなんだよ」


渋い顔で股間に手をのばしてきた松平の手をさけながら、やめろって、と近藤は苦笑いを浮かべる。


「ちったぁ遊びをおぼえたかと思ってたのに、いつまでもガキだなオイ」

「うるせーよ、とっつァんと一緒だとおちおち酔ってもいられねーから嫌なんだよ」


警察庁長官である松平、部下である近藤としては、しぜんと護衛する心づもりにならざるをえない。


「あぁあ〜!まったく相変わらずクソ真面目な野郎だなー、ソイツの中身も変わらずってこたぁねえだろーな」

「こりゃとっつァんがくれた本身に決まってんだろ」


いつまでも竹光のワケねーよ、小声でそうつけくわえて照れくさそうに笑う近藤に、松平はフンと鼻で笑いかえし煙草を取りだして咥えた。
慣れた手つきで阿音が火をつけ、ぷかりと煙を吐きながら「んなこたァわかってんだよォ」と、穏やかな声で松平が独りごちる。


変わりゆく流れの中にあっても変わらずに在るもの


二人の男のあいだに、彼らにしか判らないだろう過去、そしてぶっきらぼうなやりとりの中に確かに温かな雰囲気があるのを
近藤の隣に腰掛けた妙は感じながら、水割りを作る。

目の前に酒を用意された松平が、まわりの女の子を見回し


「はーいキミたちも、遠慮せずに頼みんさい」

「きゃー、やったぁ!すいませーん、チョコ盛りとぉハーブチキンとぉシャンパンとぉ」

「も〜ジャンジャン頼んじゃって。今夜はこのゴリラ持ちだからして」

「はあ?俺ぇ?」

「当り前ぇだろ。俺から夜の帝王を継ぐって言ってたじゃねーか。だがお前は、まだまだだ。教えてやるよ、夜の帝王学ってやつを」

「夜の帝王学ってなにそれ、教えてほしくない教えてほしくない」

「あん?勝負挑んできただろーが」

「そーだけど…」


煙草を指に挟んだ手でグラスを持ち上げて、松平が酒にくちをつけたので、合わせるように近藤もチビリと飲む。



先月末、妙と阿音がクビをかけた売上決戦の日。
松平の登場によって、近藤と松平との夜の帝王をかけたドンペリ合戦の様相を呈したのだ。



花子からの電話で売上貢献に駈けつけた近藤は、妙の席に銀時が座るのを、確信と落胆をまぜこぜにした複雑な気分で見ていた。
生活ぶりの派手ではない万事屋を呼んだところで、大きな売り上げにはならないだろうことは、あまり銀時と親しくない近藤にだって察しがつく。
お妙さんはこの勝負、やはり勝つ気ではいないのだという、確信。
だが実際、お妙さんが頼りにしたのは俺ではなく、あの男なのだという、落胆。


気になる人、というのも、もしかして…


やるせなく様子を見守っていた時、思いがけない夜の帝王の登場に、相手になるのは自分だと近藤は名乗りを上げた。
心配する花子さんの気持ちに応えてやりたいとも考えていたが、それよりも


惚れた人の前で、少しでも格好つけたいじゃないか



とっつァんの遊びっぷりには到底、勝てる気もしなかったが、もともと勝ってはいけない勝負。

出来レースに便乗しなければ気取れないとは惨めだなァ、俺。



「夜の帝王の座、こーんなガキに譲るわけにはいかねえ、生きがいだからな。だがその生きがいに、後継者を育てるという新たな生きがいを見い出してみようかなーって」

「生きがいに生きがい重ねて、くたばる気ゼロじゃん!早く大人しくなれエロジジー」

「あーあーあー、お前まで!そんな栗子みてえな冷てーこと言うなよぉ」

「ふはははは!やっぱ怒られたんだな、当り前だよ」


テーブルに突っ伏した松平を横目に、近藤が笑いながらグラスを傾ける。


「あらパパ、栗子さんて?」


慰めるように肩に手をおき、阿音が問いかけると


「見せちゃおっかな〜、オジサンのカワイイ箱入り娘」

「えー、見せて見せて!」


むくりと起き上がりいそいそと、松平が懐からケータイを取り出した。




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